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2021年3月 9日 (火)

出向

 ビジネスガイドに連載中の「キーワードからみた労働法」の最新号では「出向」をテーマにしました。いまさら「出向」かという声もありそうですが,コロナ禍で仕事が激減してしまったANAの社員が,ノジマに出向しているという記事を目にして,出向について少しきちんと書いておこうと思って採り上げました。法的には,出向に対する規制はとくにないのですが,労働者派遣や労働者供給との関係は気になるところです。この点はいろいろな説明があるのですが,どういう出向が適法であるかは,それほどクリアではありません。もっとも,適法性を疑うべきではない出向があることも事実で,このあたりは実務と理論とがうまく調整がとれていません。適法な出向とは何かを,明確に定義できていないところに,出向の難しさがあります。
 今回の出向によって,本業とまったく違う仕事の経験ができて新鮮だったという声もあります。こうした出向は,会社公認の副業といえそうです。副業をめぐって労働時間規制をどうするかは,いろいろ議論がされてガイドラインも昨年出されていますが,「出向副業」は,本業のほうは休業中なので,労働時間の通算という問題は生じないでしょう。
 もし人手不足の企業に,自社の社員を継続的に送り込むということになると,前述の労働者供給や労働者派遣に該当することはないか,という点が気になってきそうです(労働者供給事業は職業安定法で厳格に規制されています[44条,45条]し,労働者派遣事業は労働者派遣法により厚生労働大臣の許可が必要とされています)。レイバーボスが手下の者を,建設会社の依頼を受けて現場に送り込むというような労働者供給と一緒にするなという意見もありそうですが,どこが違うのかを理論的に説明できるかとなると難しい面もあります。
 コロナ禍の出向は,人材のシェアリングになるということから肯定的な意見もありますし,政府も産業雇用安定助成金制度を設けるなど,前向きです(もともと出向によって雇用維持をした企業は,雇用調整助成金の活用もできます)。しかし,出向で慣れない仕事をするよう求められてストレスとなったなどの声もあることから,手放しで肯定しがたい面もありそうです。それに衰退産業での出向は,リストラの前段階という意味もあるかもしれません(企業から,整理解雇をする前に解雇回避措置を尽くしたという理由に使われるかもしれません)。
 労働法屋はこういう出向に本能的に危険な匂いを感じるのですが,それが杞憂であってほしいものです。コロナ禍で本業を休んでいる間のよい気分に転換になって,コロナ後は元の職場に戻ってそれまでの仕事をバリバリ再開した,というような出向になることを願っています。

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