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2021年3月30日 (火)

判例の記載方法と失敗学

 法律の文献で判例を示すとき,掲載誌を示すのが本来のやり方でしょう。私も学生にはそう指導します。しかし,最近では,データベースから判例を調べることが増えており,私自身もそうなので,自分で直接確認していない掲載誌を記載することにためらいを感じるようになってきました。ペーパーレスの観点からも,紙媒体の判例掲載誌を示すのは,どうかとも思います。ということで,ビジネスガイドの「キーワードからみた労働法」(日本法令)では,法律専門誌ではないので,読者目線で掲載誌に関する情報は不要と考えて掲載せず,他方,データベースなどで調べる場合の便宜のために,どこの裁判所でいつ判決が出されたかはきっちり明示し,さらに事件番号を書くという方式に途中で変えました。判決の年月日は,気持ちとしては西暦を使いたいところなのですが,ここはあまり逸脱するとどうかと思い,妥協的に和暦を使っています(ただし,判例以外の部分は,引用を除き,西暦を使うのを原則としています)。
 『最新重要判例200労働法』(弘文堂)では,本文では,掲載誌は民集と刑集以外は記載しないことにし,裁判所と年月日と事件番号で事件を特定することにしました。一方,索引には未登載のものを除き,掲載誌はすべて記載しています。また和暦を使っています。編集者の方は,一般に,どうも西暦の使用には抵抗があるようです。裁判所の判決が和暦を使っている以上,仕方がありませんね。ただ法律関連の本でなければ,できるだけ西暦を使うようにしており,編集者も何も言わないことが多いです。
 今度刊行する『人事労働法』(弘文堂)は,法律専門書ですが,人事関係の人にも読んでもらいたいという気持ちもあり,また和暦だと時間の前後がわかりにくいので,思い切って西暦を使い,索引も西暦にしました。さらに,最新重要判例と違い,索引にも民集と刑集以外は掲載誌を記さないことにしました。これは,おそらく法律専門書では初めてのことであり,これだと法律専門書と呼べないと言われるかもしれません。でも,一度,これでやってみて,読者の反応をみてみたいと思ったのです。
 学術論文は形式が大切で,その作法を学ぶのは研究者としての第一歩ですが,それはその業界のプロ相手に書くものだからです。一般の人にも読んでもらうように出版する以上は,いかにして読者にとって読みやすく,また,こちらの書きたいことが伝わるかが大切です。そう思うと,業界内では定着している形式であっても,その外では必要に応じて適宜修正していくことは必要だと思います。今回の『人事労働法』のスタイルは,編集者の方になんとか認めてもらったような感じですが,読者にとって読みにくいという批判があれば,潔く改めるつもりではいます。
 ところで,昨日,神戸大学のV.School1周年記念シンポジウムがオンラインで開かれ,私も聴衆として参加していました。その基調講演が,失敗学の研究者であるバブソン大学の山川恭弘さんによるものでした。経営分野の人の話はわかりやすいなと感動すると同時に,自己啓発セミナーに出たような気分で,失敗をおそれるなという強いメッセージをもらいました。たくさん失敗し,そこから学ぶことが大切だというのは,当たり前のことですが,なかなかできないことです。年齢をかさねると守りに入ることも多いでしょう。たかが判例の記載方法の失敗くらい,たいした話ではないという気にもさせられます。『人事労働法』では,より重要な内容面でも多くの挑戦をしているので,もっと多くの失敗をしているかもしれませんが,たとえ失敗したと言われても,へこたれずに前に進んでいきたいと思っています。
 もちろん失敗はしないに越したことはありません。失敗をすると,周りに迷惑をかけてしまいますので,できるだけ避けようとするのは当然です。ただ,失敗をおそれすぎて,何も新しいことにチャレンジできないということこそが,最大の害です。失敗の積み重ねはチャレンジした勲章だと言い聞かせながら,果敢に挑戦する研究者でいたいですし,そうした研究者に囲まれて研究をしていきたいですね。

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