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2020年9月21日 (月)

危険なビーナス

 東野圭吾『危険なビーナス』(講談社文庫)のなかに,父親の病院を継いで医師になるとみられていた明人が,その通っている中学でコンピュータのサークルをつくっていると聞いた,獣医志望の異父兄の伯朗が,明人との間で交わす次のような会話があります(75頁以下)。

 「医者になるのに.コンピュータは必要ないと思うけどな」……
 「逆だよ。コンピュータがあれば,大半の医者はいずれ必要なくなる。医者がやってることを考えてみなよ。問診票やいろいろな検査結果から病名を推測して薬を処方する―ただそれだけだ。経験というデータベースが武器だけど,全世界の全症例を記憶するなんて,一人の人間には無理だ。でもコンピュータなら不可能じゃない」……
 「獣医も必要なしってわけか」
 「さあ,それはどうかな。費用対効果を考えると当分の間は人間が診たほうが安上がりかもしれない」
 「それを聞いて安心した」


 ここにはAIやロボットが雇用を代替するときに出てくる論点が,そのまま出てきていますね。
 ところで,私も含め多くの人は,医師にはたいへん感謝をしてはいるのですが,医師のあまりにアナログ的な仕事ぶりには驚かされてもいます(パソコンを置いているというだけでは誤魔化されません)。そもそも患者の健康情報なのに,なぜ患者にはデータでもらえないのでしょうか,それを医療研究用にきちんと分析するならまだしも,必ずしもそういうことではないようです。おそらく今後は,私たちは自分の健康データは自分で把握・管理して,それを自分でアプリなどをつかって分析し,わからないところを医師に聞くというようなことになっていくでしょう。ホームドクターは,リアルな病院やクリニックでなくても,オンラインで対応してくださればいいのです。熱があるときに,医者のところに行くつらさは誰もが感じています。往診してくれなくても,とりあえずオンラインで診察してくれれば助かるということが多いはずです。まだ重くなっていないのでそのうち治るかもしれないが,念のために診てもらいたいというときも,病院に行くと,ほんとうの重病人から感染させられないかと心配になります。待たされる時間が長いから,余計に心配です。
 こういうことを避けるためにもオンライン診療は必要なのです。対面型でなければならないという医師の言い分もわからないではないですが,そこはもっとテクノロジーをつかって,どうやったら対面以外の方法で患者の情報を入手できるか工夫をしてもらいたいですね(同じようなことは1月にも書きました)。 


 それで『危険なビーナス』はどうかというと,これは東野圭吾の作品にときどき出てくる最新医療ものです。サヴァン症候群の話をからめながら,伯朗と明人の母の謎の死や明人の失踪などが組み合わさり,そしてちょっとセクシーで小悪魔的な女性も出てくる,一級のミステリー娯楽作品です。

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