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2020年9月27日 (日)

神戸労働法研究会

 神戸労働法研究会も,オンラインでの会議がすっかり定着して,毎月コンスタントに開催しています(といっても,報告者を確保するのには,やや苦労しているのですが。研究会のメンバーの皆さん,ぜひエントリーをよろしくお願いします)。昨日(9月26日)も研究会を開催し,いつものようにいろんなことを勉強することができ,大変有益でした。最近では,解釈論のことをあまりやっていない私にとって,この研究会は頭をリフレッシュするためにとても貴重です。
 今日の研究会では,九州惣菜事件・福岡高裁判決と朝日建物管理事件・最高裁判決の報告を聞きました。前者は,私が『最新重要判例200労働法(第6版)』(弘文堂)にも掲載している比較的新しい裁判例ですが,神戸大学の櫻庭さんの報告を聞いて,改めてしっかり考える機会が得られました。私個人としては,やや使用者に厳しい判決ではないかという印象をもっています。定年後再雇用において,いったいどのような賃金設定なら許されるのかについての判断基準がないなかで使用者は賃金決定をしなければならず,これで慰謝料100万円というのは,私が使用者ならちょっと納得できないかなと思います。判決が挙げている不法行為の根拠で十分かは,研究会でも議論となりましたし,その他,高年法の趣旨や9条1項の解釈のあり方といった基本論点,高齢者の処遇と人事管理との関係,労契法20条との関係など,多くのことが議論できました。この判決については,秋の日本労働法学会でも採り上げられて,櫻庭さんがコメントされるそうで,そこでどのような議論がされるか楽しみです。
 もう一つの朝日建物管理事件・最高裁判決(最1小判令和元年11月7日)は,北海道大学の池田君に報告してもらいました。オンラインですので,北海道にいようが,沖縄にいようが,どこからでも出張なしに参加することができます。みんな自分の好きなところから研究会に参加できるのが,オンライン会議の魅力ですね。コロナが去っても,少なくとも私は,リアル会議に戻すつもりはありません。
 ところでこの最高裁判決は,最初に読んだときには,何が論点なのかよく理解できませんでした。池田君のいつもの簡にして要を得た報告を聞いて,ようやく理解できました。
 第1審は,有期労働契約の中途解雇について労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」が認められないとして,これを無効とする判決を下したのですが,この判決の口頭弁論終結時までに有期労働契約の期間が満了していた事実については考慮せずに,労働者を勝たせていました。第1審は,使用者が解雇以外の労働契約の終了事由を主張しない以上,原告である労働者は,労働契約上の権利を有する地位にあるというべきである,としたのです。
 控訴審で,使用者側が,ようやく有期労働契約は期間の満了により終了したという主張を追加したのですが,労働者はこれを「時機に後れた攻撃防御方法」として却下すべきであると主張し(民事訴訟法157条1項),裁判所はこれを認めて,第1審の判断を結論として維持し,やはり期間の満了による雇用の終了について判断することなく,使用者の控訴を棄却しました。第1審の訴訟提起時が平成26年10月25日で,訴訟係属中の平成27年3月31日に契約期間が満了となり,なぜか口頭弁論終結は平成29年1月26日と2年近く先になるという,やや異常な審理進行が控訴審の判断に関係していたかもしれませんが,よく事情はわかりません。
 とにかく本最高裁判決は,第1審の口頭弁論終結時において,契約の期間が満了していたことが明らかであるとし,第1審の裁判所は,この事実をしんしゃくする必要があったし,控訴審では,第1審がしんしゃくすべきであった事実を使用者が指摘することが時機に後れた攻撃防御方法の提出であるということはできないし,また時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして却下したからといって,その事実をしんしゃくせずに判断できるものでもないとして,原判決を破棄し,原審に差し戻しました。要するに,期間満了で終了したことは明らかな事実なのだから,裁判所は当事者の主張に関係なく,その事実をしんしゃくしなければならないということです。また,この事件では,労働者が,中途解雇が「やむを得ない事由」がないものと主張する前提として「期間の定めがあること」を主張しているので,主張責任のある当事者が主張しなくても,どちらかの当事者が主張している事実は判決の基礎にできるという「主張共通の原則」も関係してきます。
 第1審で,使用者が,仮に中途解雇が無効であるとしても,期間の満了によって労働契約が終了していたという予備的主張をなぜしなかったのか,また裁判所がなぜこれを争点としなかったのかは謎です。また,控訴審が,使用者によるこの事実の指摘を時機に後れた攻撃防御方法として却下した理由も不明です。いずれにせよ,最高裁は,第1審にも,控訴審にも,それぞれ手続上の問題ありとしたのです。
 このように本判決は訴訟手続上の論点にかかわる事件ですが,実体法上の問題と関わっている可能性もあります。研究会の最後のほうで議論になったのは,労働者が有期労働契約の中途解雇の有効性を争っている訴訟において,契約期間満了を理由として雇用の終了を認める判決を下すことに否定的な,菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂)の343頁の記述についてです。
 池田君は,依頼元との関係で,手続法的な論点を中心に評釈を書かれるようですが,本件の背景に,実体法上の論点が関わっているとしたら,そこにはミステリー的な興味をそそられます。差戻審では,有期労働契約の中途解雇と雇止めを絡めた新たな判例が出てくる可能性もあります。そうなると,たんに手続的な瑕疵を指摘して控訴審(ひいては第1審)に「ミスを改めよ」と述べただけにすぎないような本判決が,労働法の発展に大きく貢献したなんてことにもなるかもしれません。

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