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2020年9月19日 (土)

労災補償保険制度の比較法的研究

 JILPTの報告書『労災補償保険制度の比較法的研究-ドイツ・フランス・アメリカ・イギリス法の現状から見た日本法の位置と課題』をお送りいただきました。執筆者は,山本陽大(JILPT)・河野奈月(明治学院),地神亮佑(大阪大学),上田達子(同志社大学)の4名です。どうもありがとうございました。労災保険法制度に関する基本的な情報に加え,複数就業者,テレワーカー,独立自営業者という新しい問題に関する情報を横断的に調査するもので,貴重な報告書だと思います(情報があまりない国もありますが,制度がないということも情報の一つです)。私自身の関心は,とくに独立自営業者にあり,個人的には,雇用労働者の労災保険の拡大ではなく,労災保険の存在理由というものから根本的に問い直して,新たな共済のシステムの構築を目指す必要があると考えています(私の問題関心については,拙著『デジタル変革後の「労働」と「法」』(日本法令)275頁以下でも若干ふれています)。
 本報告書では,総括のところで,日本法の今後についてふれられ,「特別加入制度の適用対象の拡大が検討されることになろう」となっています。また「労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会において,特別加入制度の対象範囲の拡大や特別加入団体の要件の見直し等について,議論が行われる予定となっているが,このような方向性は,比較法的観点からもその妥当性を首肯することができよう」というのは,クライアントの厚生労働省への気遣いも含まれているでしょうかね。末尾の「使用者の災害補償責任を定める労基法第8章が現代において持つ意義と,それを踏まえた労災保険制度の法的性格付けについても,改めて議論ないし検討すべき時期に来ているように思われる」というのはまったく同感ですし,さらに上記のように労災保険制度の根本的な見直しが必要だと考えています。
 こういうことを書くと思い出すのは,いまから20年くらい前でしょうか,労働省の研究会に呼んでいただき,労災保険制度について自由に議論してよいという当時の課長の意向で,ほんとうに自由に議論をしていて民営化論とかもやっていたのですが,途中で課長が替わり,方向性が変わってしまい,あるときの会合で突然,いままで来たことがなかった人たちが席に座っていて,まるで勝手な議論を許すまじというような圧力をかけてくる雰囲気になったことです(私の主観ですが)。あれ以来,どうせ労災保険制度は本質的なところでは変われないだろうなと思っています。現在の受給者の不利益変更はダメですが,これからの制度をどうするかということを考えるときには,健康保険や国民健康保険との関係も視野にいれた,もっと大胆な議論をする必要があるはずです。厚生省と一体化した現在なら,以前より自由に災害補償のあり方について議論できる土壌があるのではないかと思うのですが,どうでしょうかね。それに重要なのは,労災についても,従来の20世紀型社会とデジタル技術中心の21世紀型社会とでは,内容がまったく異なることになることです。ぜひ,この報告書をきっかけに,デジタル社会の労災とはどういうものかを視野に入れながら,斬新で新たな統合的な災害保障システムを論じる研究が出てきてほしいですね。




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