« 将棋界のトランスフォーメーション? | トップページ | NIRA総研のオピニオン・ペーパーが出ました »

2020年7月 3日 (金)

労働者憲章法施行50周年

 イタリアの労働者憲章法(Lo Statuto dei Lavoratori)と呼ばれてきた1970520日法律300号が,今年50周年を迎えるということで,何かエッセイを書いてくれないかという依頼がイタリアの雑誌から来ました。なぜ日本人の私に来るのか最初は驚いたし,私でよいのかという気もしましたが,私の修士論文は,この労働者憲章法の第28条(見出しは「反組合的行為の抑止」)を扱ったもので,私も深い思い入れのある法律でしたので,お引き受けすることにしました。コロナ禍でも,結構,忙しくて,イタリア語で本格的な論文を書く余裕はなかったので,枚数は問わないという先方の言葉に甘えて,比較的短いエッセイ風のもので勘弁してもらいました(エッセイと言っても,専門的な内容のものですが)。https://www.lavorodirittieuropa.it/dottrina/principi-e-fonti/486-lo-statuto-dei-lavoratori-e-il-diritto-del-lavoro-giapponese

 1970年は私は67歳でしたので,あまり記憶がありません。ただ,母と一緒に,二人で大阪万博に行った甘い記憶が残っています。妹が二人いたので,日頃は母と二人だけになることがなかったときに,どういう理由であったかわかりませんが,おそらく父が妹の面倒をみてくれたのでしょうか,母が私に万博を見せようと思って連れて行ってくれたのだと思います(でもひょっとすると,家族全員で行ったけれど,一緒にあちこち移動したのは私と母だけということだったのかもしれません)。こういう個人的な記憶しかない1970年ですが,社会は,1960年代末の不安定な社会状況の余韻をまだ引きずっていたのでしょう。ちなみに藤原弘達の『創価学会を斬る』(196911月刊)がベストセラーになったのも,この年でした。
 イタリアも,1960年代末は社会騒乱が起きて(異議申立運動など),1969年秋は「熱い秋(autunno caldo)」と呼ばれるような,ある種の労働者の革命が起きて,そのようななかから誕生したのが労働者憲章法でした。これはいわば日本の労働基準法と労働組合法が合体したようなもので(規制内容は日本とはかなり違いますが),今日に至るまでイタリア労働法の基本法となっています。日本のように戦後早々に労働組合法と労働基準法ができたのとは異なり,イタリアは1970年になってようやく体系的な労働立法がなされたのです(イタリア労働法については,少し古くなってしまいましたが,日本労働研究機構(現在のJILPT)から刊行された拙著『イタリアの労働と法』(2003年)を参照してください)。また当初の労働者憲章法の邦語訳は,山口浩一郎先生のなさったものが,ティツィアーノ・トレウ=山口浩一郎編『イタリアの労使関係と法』(1978年,日本労働協会)に収録されています。

  山口浩一郎先生や諏訪康雄先生や脇田滋先生なら,もっと味のあるエッセイを書かれたかもしれませんが,私はやや堅い内容の,イタリアの不当労働行為制度をなぜ日本人の私が研究対象としたのかというようなことを書きました(イタリア語なので,直球的なものしか書けなかったのが本当の理由です)。
 イタリア人の読者にはどうでもいいような内容であったかもしれませんが,個人的には,こういうものを書かせてもらう機会を得て,とても幸せでした。イタリア労働法の研究は,日本では,比較法大国(英米独仏)の研究のついでのようなものですし,イタリアでは,日本人がなぜイタリア労働法の研究をしているのか,ほとんどの人は理解不能という状況であったのです。でも,いま労働者憲章法について多くの有力なイタリア人研究者と並んで,日本人にも書かせようという雑誌が出てきたということで,これまで地道にイタリア労働法研究をやってきて良かったとつくづく感じました。この道に導いてくださった山口先生と諏訪先生には心より感謝しています。

 最近,久しぶりにイタリア留学経験のある亜細亜大学の中益陽子さんと一緒に研究する機会がありました。テーマはイタリア法ではありませんでしたが,イタリア労働法の研究者仲間として,気脈が通じるところがあって良かったです(社会保障法の政策のところは見解が相容れないところもありましたが,それは彼女のほうが専門家ですから当然のことです)。イタリア労働法については,明治大学の小西康之さんや早稲田大学の大木正俊さんもいます。彼女,彼らが,次世代のイタリア労働法研究の道をつないでいってもらえればと思います。

 参考までに,日本におけるイタリア労働法の研究については,「文献研究労働法学(第14回)外国法研究編(イタリア)」季刊労働法247181-190頁(2014年)で概観しています。また私個人のイタリア法研究への思いについては,10年前に「イタリア法への誘い(1)〜(3)」法学教室358号,359号,360号(2010年)で書いています。

« 将棋界のトランスフォーメーション? | トップページ | NIRA総研のオピニオン・ペーパーが出ました »

私の作品」カテゴリの記事