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2020年7月18日 (土)

新刊

  昨日も書きましたとおり,日本法令から『デジタル変革後の「労働」と「法」―真の働き方改革とは何か?』を上梓しました(電子版もあります)。昨年秋までのサバティカル期間中,自分の考え方を根本的に見直す作業を続けるなかで,未来の労働法について何か書いてみないかという声をかけていただきました。ちょうど昨年あたりから,労働の原点や新たな資本主義という視点で話をする機会もあり,自分なりの現時点での考えをまとめるのに良い機会だと思い,お引き受けしました。2017年に弘文堂から出した『AI時代の働き方と法ー2035年の労働法を考える』の続編を書く必要があると考えていたタイミングとも重なりました。コロナと重なったのは偶然ですが,コロナのせいで,本書の内容がたんなる未来の空想的なことではなく,リアリティが出てきたような気がしています。Go Toキャンペーンもありますが,いまは巣ごもりして充電すべき期間でしょう。この機会を利用して,コロナ後の社会を展望すべく,本書を手に取ってもらえれば嬉しいです。
 本書のメインはDX後の未来社会なのですが,歴史も振り返っています。未来のことを考えるうえでは,歴史をみることがどうしても必要だからです。本書のキーコンセプトは,労働を共同体への貢献とみることにあります。株式会社形態で営利を追求する企業に雇用されて働くというのが20世紀型社会の労働であるのに対して,個人が自立してデジタル技術を駆使しながら共同体に貢献するのが21世紀型社会の労働であると位置づけ,こうした変化には必然性があり(環境問題,シェアリングエコノミーの広がりなどに,その兆候はすでに現れています),そして法は21世紀型社会に生じる新たな課題に,デジタル技術を使って解決していくことが求められるというのが,本書の主たるメッセージです。DXが到来して,社会がデジタル化していく時代では,経済や社会がどう変わるかを展望せずに,労働を語ることはできません。またそれは労働というテーマにとどまらず,私たちが社会の一員として,これからどう生きていかなければならないかを考えることにもつながります(本書では扱っていませんが,民主主義などの統治システムの問題にも関心をもっていて,これも機会があれば論じてみたいところです)。
 労働法の議論としては,いつものように雇用労働・従属労働だけをターゲットにしてはならないというテーマはもちろん扱っていますが,これに追加して,リバタリアン・パターナリズム的な発想に基づき,任意規定とナッジ(行動経済学)とテクノロジーを組み合わせるという新たな規制手法のアイデアも出しています。これは,おそらく労働法の理論を根本から覆すものとなるでしょう(そのより具体的な内容は,長い長い構想段階を経てようやく完成に近づいている『人事労働法』という本のなかで示す予定で,現在最終的な作業をしているところです)。
 また,労働政策上のテーマとしてのセーフティネットの再編(原点回帰)にもふれていますし,今後の重要な政策課題として,個人情報保護,プライバシー・差別,格差(デジタルデバイド),教育も採り上げています。本書で提示した問題提起に共鳴して,若い世代の人が,より緻密な政策論議を展開してくれる人がでてくればと思います。
 現在の延長線上でものを考えるのは実務家や役人の発想であり,それは社会の安定のためにも必要ですが,研究者には,これとは違って,想像力を駆使して,ディスラプション後の社会を展望して,創造的に新たなビジョンを提示することに,,固有の貢献の余地があると思っています。
 私としては現時点で精一杯の知的挑戦をしたつもりです。能力の限界もあり,いろいろ欠点もあると思いますが,真剣に未来を考えていこうとする人に,本書が思考や議論の材料を提供できたなら,著者としてこれに勝る喜びはありません。

 

 

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