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2020年4月30日 (木)

最新重要判例200労働法(第6版)の刊行

  『最新重要労働判例200労働法』(弘文堂)の第6版が出ました。といっても,もう1か月以上経ちます。おかげさまで,第6版まで出すことができました。読者の皆様に感謝です。この本があるため,いまでも判例の勉強は継続して行っています。改定作業は実質的には年内に終えていたので,今年2月末にでた「逆求償」に関する最高裁判決は入っていません。これは第13事件の「茨石事件」の解説に付け加えることになりそうです。この判決については,ビジネスガイドの「キーワードからみた労働法」で取り上げているので,興味のある方はご覧になってください。
 このほか3月末には国際自動車事件の差戻審の最高裁判決も出ましたね。前にこれもビジネスガイドで,差戻審の高裁判決は最高裁のメッセージを読み間違ったのではないかと論評していました(ビジネスガイド137号の「キーワードからみた労働法」)。案の定,高裁判決は破棄され,再び差し戻されました。この差戻審の最高裁判決は,そのうち研究会で検討することにしたいです(神戸労働法研究会は2月以降中止していましたが,オンラインで再開することになりました。オンラインにすることにより,遠方の方も参加できるようになりますし,帰国中の留学生が海外から参加することもできるので,新たな可能性が生まれた気がします)。
 今後は労働契約法20条関係の最高裁判決も出るでしょう。そう思うと,まだ『最新重要労働判例200労働法』の役割はありそうですが,その一方で,コロナ後の社会を思うと,どうなるのかわからないなという気持ちもあります。ご存じのように,私はここ数年,自営的就労者の時代が来て,労働法が不要になると主張しています(それが,拙著『会社員が消える』(文春新書)というタイトルにも表れています)。それがいつになるかわかりませんが,2035年くらいかなと思っていたところ,ぐんと早まる可能性が出てきましたね。
 ところで新型コロナショックでまず話題になったのが,自営的就労者の収入途絶問題でした。いきなり仕事がなくなったので大変です。個人でやっていますから経済的にもこういう大きな変動への抵抗力は弱いでしょう。だから自営的就労者のことをもっと政策的に考えなければならないという話になります。
 しかし,少し冷静に考えると,これは,やや違う観点から論じることができます。今後,大リストラの波がやってきます。今朝の日本経済新聞の社説は,「雇用ルールの軽視は許されぬ」として,とくに中小企業に対して労働法を遵守せよと言っています。しかし,ここは中小企業のことも考える必要があるでしょう。雇用調整助成金がなかなかもらえないという事情もあります。ようやく政府はオンライン申請を言い出していますが,実際には申請してもいつ助成金がもらえるかわからないでしょう。いずれにせよ,労働法の遵守は当然のことです。ただ,労働法を遵守しても今回くらいの事態であれば解雇は合法的にできてしまいます。労働契約法16条や整理解雇の法理によっても,そこは止められません。むしろ解雇はやむなしと想定して,どうやって企業も労働者もできるだけダメージを小さくし,コロナ後の立ち直りを早くするかを考えなければならないのです。見込みのない企業で雇用を支えてもらって,結局共倒れになるよりは,早く次のステップを考えたほうがよいです。コロナ後がいつくるかわからないのですが,オンライン化が進み企業の省人化対応も進むと,製品需要が戻っても,労働力需要は戻らない可能性が高いでしょう。機械でできることは機械でというAI時代で予想していたことがいきなり実現してしまう可能性があります。そうなると,どういうことが起こるかは拙著『AI時代の働き方と法―2035年の労働法を考える』(弘文堂)を読んでいただきたいのですが,結局それは個人の自営的就労者やフリーランスの時代になるということです。だからそれに備えた政策が必要なのです。昨日,西日本新聞で,この問題に関係する記事のなかに掲載されている私のコメント(内容はいつも述べていることの繰り返しですが)も,こういう問題意識です。つまり自営的就労者への政策は,現在の問題であるだけでなく,コロナ終息の直後の問題でもあるのです。
 ところで,今回の新型コロナショックで,もし私たちが主張していた解雇の金銭解決制度(大内・川口大司編著『解雇規制を問い直すー金銭解決の制度設計』(有斐閣)を参照)があればどうなっていたでしょうか。私たちの主張は,企業は帰責性がなくても,解雇をする場合には,労働者の逸失賃金を完全に補償しなければならないというものでした。そして,その負担は,中小企業には大きすぎるので解雇保険を作って対応すべきとしていました。もし実際にこの制度があったとすれば,新型コロナショックで瀕死の企業は,従業員を解雇することができますが,労働者も解雇保険から十分なお金がもらえます(メリット制によりその後の企業の保険料は高くなりますが,それは当然のことです)。もちろん,大量の保険給付で保険財政が大変なことになるでしょうが,それは政府が特例で援助して対応すればよいのです。
 なんてことを思いますが,手遅れですね。実は,私たちの主張する解雇の金銭解決制度は,これから雇用が減って自営に移行していくようになるときにこそ,活用できるはずなのです。これは(よく誤解されているような)解雇を自由化する制度ではなく,解雇の際に企業負担でプールしていた基金から従業員の生活保障にお金を回すという制度なのですから。
 平時においていかにして想像力を働かして将来に向けた制度を構築するかが重要ということを,改めて知ることになりました。今回のような事態が生じるとはまったく想像できていなかった私も,大いに反省しなければなりません。感染症の危険を警告し,実際に活動をしていたビル・ゲイツは偉大ですね。

 

 

 

 

 

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