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2020年1月19日 (日)

久しぶりに小説紹介

 

  昔は,ブログで,読んだ小説の紹介をする読書ノートをよく書いていたのですが,最近はあまり書かなくなりました。読んでも詳しく紹介する時間がなくなっていたという事情もありますが,専門書を読むことが増えて,一般書を読むことが減ったことも一因です。数年前までは,お風呂で1冊という感じでしたが,最近はお風呂では必ず寝てしまうので,本も雑誌も持ち込んでいません。また本をKindleで買うことが増えていて,お風呂に持ち込めなくなったという事情もあります。お風呂という読書タイムがなくなったため,Kindleにダウンロードした本がどんどん滞留してしまっています。

 それでもこの12年以内に読んだ本を2冊ほど紹介したくなったので,記憶を呼び覚ましながら書いてみます。1冊目は,映画化もされているし,続編も出ている,志賀晃『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)です(ネタバレあり)。

 麻美の彼が落としたスマホがとんでもない男に拾われて,その彼のスマホに残っていたデータから麻美のことが知られて,ストーカーされてしまうという話です。男が,情報を分析して徐々に麻美に近づいていくところが怖いです。スマホにほぼすべての情報を一元的に管理している現代人にとって,セキュリティに十分に気をつけているつもりでも,専門家にかかれば,簡単にプライバシーが暴かれてしまうというところが,小説の次元を超えて,リアルに怖かったです。

 小説は,これと併行して,連続猟奇殺人の話もあるのですが,こちらの話は犯人が誰かを推理するということではなく,いわば麻美に降りかかった災難のBGM的な流れで進行しています。麻美が自殺した友人(本当の麻美)の入れ替わりであり,友人の借金のためにAV女優をしていたというのは,麻美の少しエロいところが描かれていたところも含めて,ちょっとした男性読者サービスかなという気もしましたが,ただ友人の自殺の動機が弱いかなという印象ももちました。あっという間に読めてしまいますし,スマホを落としたら大変なことになるということを確認できる意味でも,読んでみて損はないでしょう。

 もう一冊は,村田沙耶香『コンビニ人間』(文春文庫)です。2016年上期の芥川賞受賞作です。36歳でコンビニ店員一筋の古倉恵子。彼女は,コンビニのアルバイト店員という「生き物」になることにより,自分を完全に空っぽにすることができました。現実の社会では,社会の掟なるものがあって,みんなそれにごく自然に順応しているのですが,どうしても順応できない恵子。でも彼女には自分が浮いていることはわかっても,浮いてしまう原因がわかりません。家族に心配をかけたくない彼女がとった自衛手段は,自分を捨てることでした。自分を空虚にしても,コンビニ店員としては,立派にやっていけます。マニュアルどおりにやればいいのです。そんな恵子が,ひょんなことから,白羽という男性と同棲することになります。白羽は,プライドはあるものの,コンプレックスの塊で,やはり社会にうまく順応できず,コンビニの店員もクビになってしまった男でした。彼は,世間(とくに社会的な常識を押しつけてくる兄嫁)から逃げようとしたところ,独身・処女ということで居心地の悪さがあった恵子と,仮面夫婦をすることで利害が一致したのでした。しかし,同棲を始めたことをコンビニの仲間に知られてしまったとたん,これまで恵子を「あっち側」の社会の人として敬遠していた仲間が,「こっち側」の社会の人間とみて,社会の掟を押しつけてくるようになったのです。いたたまれなくなった恵子は18年間勤めたコンビニを辞めますが,そのとたん彼女はからっぽの存在に戻ってしまいます。依って立つべき基準がなくなってしまった彼女は,生きる目標を失います。白羽は恵子に働きに出るように薦めます(自分がヒモで居続けるためなのです)が,その途中でコンビニ店に立ち寄ったとき,彼女は自身を再確認できたのでした。彼女はコンビニ人間であり,コンビニ以外では生きていけないのです。本質は縄文時代と何も変わっていない(白羽の言葉)社会で,しかし縄文時代と違い,性欲も食欲も極端に減退している若者が,(おじさんの目からみると)目的をもてずに生きている様子が,乾いた文章でつづられているという感想をもちました。

 

 

 

 

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