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2019年10月の記事

2019年10月21日 (月)

書籍紹介3

 『ベーシック労働法』(有斐閣)は, 浜村彰・唐津博・青野覚・奥田香子さんという著者の名前をみるだけで,その重厚さにめまいがしそうですが,そういう先生方が書かれた労働法の初心者向けの教科書です。早くも第7版です。好調ですね。わかりやすい教科書へのニーズは高いのでしょうね。ところどころにプロレイバー色がみられますが,これこそが労働法のスタンダードなのでしょう。


 『ウオッチング労働法』(有斐閣)は,今日,手にしました。編者は,土田道夫・豊川義明・和田肇さんという,上に負けず劣らず重厚な名前が並んでいますが,こちらのほうは,土田シューレ,和田シューレの俊英の若手研究者が勢揃いして,がっちりサポートしています。第4版ですが,世代交代がうまく進めば,いっそうの改訂が見込まれるでしょう。法学部のゼミ向きの演習本ですね。


 番外編として,『判例六法(令和2年版)』(有斐閣)も届きました。今年から編集協力者から外れることになりました。いつもこの仕事のために春ごろに判例を読み込む作業をしていたのですが,これからは自分でスケジュールを組んで勉強しなければなりません。


 上記の先生方および有斐閣には,いつもご配慮いただき,厚く御礼申し上げます。

2019年10月14日 (月)

「その日暮らし」の人類学

 


 


 小川さやかさんの『「その日暮らし」の人類学―もう一つの資本主義経済』(光文社新書)と『都市を生きぬくための狡知-タンザニアの零細商人マチンガの民族史』(世界思想社)を読みました。サントリー文化財団での仕事(学芸ライブ)でご一緒することになり,事務局の方から事前にお送りいただいていました。後者はサントリー学芸賞を受賞されている重厚な学術書です。そして,前者の新書は,その内容を中心としながら,さらに内容を追加して一般人向けに書かれたものです。


 これらの本から,タンザニアの商人たちの商売の仕方や生き方にディープに潜入した著者による,私たちが普遍的と考えているような資本主義とは違う,草の根のたくましい商人たちが支える資本主義があるのだという,強烈なメッセージが伝わってきます。著者は,別に彼らの生き方がよいと言っているわけではないのですが,この「もう一つの資本主義経済」のもつ私たちへのインパクトは非常に大きいものです。


 実は,私自身もサバティカル期間中,いまさらながらですが, 資本主義と労働というものをずっと考えていました。資本主義社会の到来により,雇われなければ生きていけない労働者が生み出されたところに今日の様々な問題の根源があるのです(それは労働法の原点でもあります)が,そうした資本主義社会に対して,共産主義に一気に傾斜するわけにもいかないなか,どのように向き合っていくかということは,私自身がこれから考えて行かなければならないことです。人間のとどまることを知らない欲望とどう向き合うか,物質的な欲望がもっと制御された,資本主義とは違う社会があるのではないか,という問題意識は重要だと感じています。


 もっとも,小川さんの紹介するタンザニア商人は,別に欲望を抑制しているわけではありません。資本主義の洗礼を強くうけないまま,ただたんに前向きに「その日暮らし」をしながら,グローバルな経済社会の底辺でたくましく生きているのです。だまされても,だました人の助けになっていたらいいし,ほんとうに困っているときに人を騙して窮地を脱することもあっていい。そういうことはお互い様である。でもやってはいけない最低減の道義のラインはある。そうしたラインが自然発生的に存在しているものの,国の規制として存在しているわけではなく,そこにある種の新自由主義的な経済社会があるともいえるのです。


 欲望がどんどん膨らみリスクの大きい資本主義のなかにいながらも,不安定さを嫌って,安心を求める日本人。いったん資本主義の洗礼を受けてしまった日本人がタンザニア人のようになることは無理だろうという気はしますが,なんとなく自分にまったくできそうにない生き方ではないのではないか,という気もしています。大学院生時代にイタリアに初めて留学したとき,それほど貧乏ではなかったものの,生存ギリギリのラインには,今よりもはるかに近いところにいたことは確かで,自分の将来がまだよくわからなかったあの頃の「その日暮らし」感は,ちょっと懐かしい気もします。


 いずれにせよタンザニアという,まったく想像もできないような国のことを,ここまで見事に私たちに描いてくださった小川さんに感謝すると同時に,体験と分析という肉体と知性の融合する研究のもつ迫力と面白さを存分に教えてもらいました。


 


 




 


2019年10月 7日 (月)

書籍紹介2

 労働法関係の本でご寄贈いただいた本の御礼とご紹介の続編です。今回も教科書関係を中心にします。

・森戸英幸『プレップ労働法(第6版)』(弘文堂)
 本の帯にある「最初の1冊はこれで決まり!」がぴったりです。改訂版は,自分の関心のあるところから読むということで,労働契約法20条関係から入ったのですが,いきなり「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の略称が「パー有法」となっていてびっくり(150頁)。これって「ぱーゆーほう」と読むのでしょうか(水町さんが怒り出しそうですが)。大胆な略称の付け方に脱帽です。その次の頁にいって,真ん中から下の会話を読んで爆笑してしまい,そこでとりあえず終わってしまいました。読んで笑える珍しい労働法の教科書です。

・水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会)
 水町さんから重厚な本が届きました。索引なども含めて1500頁近くに及ぶ大作で,とても最初から最後まで読みとおすことはできないですが,辞典のように机の上に置いておくことを想定したものなのかもしれません。日本の労働法を完全に描こうとするには,これだけの分量が必要ということなのかもしれません。帯に書かれているように「労働法を詳しく知りたいすべての人の必携書」であることは間違いないでしょう。ただし,労働法を「深く」知りたい人のニーズを満たすかどうかは,評価が分かれるかもしれません。

・川口美貴『労働法(第3版)』(信山社)
 上の水町「詳解」に負けないくらいに迫力のあるのが川口さんの教科書の第3版です。第2版が出たばかりと思っていたので,実に精力的ですね。川口さんは,一流の教科書ライターだと思います。細かい論点にまで気がまわっていて学習者への配慮があるし,その反面きちんと自説も展開しているし(懲戒権の契約説など)。研究者のなかには,この本のファンが多いのではないか,と密かに思っているのですが,どうでしょうか。

 文字通り詳しい解説を求めるなら「詳解」,初心者向けなら「プレップ」,ディープな労働法を学びたいなら川口本というところでしょう。

 

 





 

 

2019年10月 2日 (水)

書籍紹介1(表題変更)

 今週から大学の通常業務に復帰しました。この間にも時々お送りいただいた本の整理はしていましたが,きちんとできていませんでした。できるだけ早く,お礼をかねてご紹介していきたいと思います。

・土田道夫『労働法概説(第4版)』(弘文堂)
  もう第4版になるのですね。土田先生の『労働契約論』(有斐閣)のエッセンスを凝縮した本ですが,それなりの分量になっています。精密な土田労働法の世界を堪能できます。土田先生には,今月の日本労働法学会のワークショップでもお世話になります。

・野田進・中窪裕也『労働法の世界(第13版)』(有斐閣)
  こちらは13版ということで,いまや労働法の教科書の定番中の定番です。登場したころは新しいスタイルという印象でしたが,もはや堂々たるスタンダードの教科書です。「はしがき」で「せっかく『働き方改革』が喧伝されたのであるから,それぞれの現場でお仕着せでない工夫と努力を重ね,真に公正でゆとりのある働き方へと繋げてほしいものである」という落ち着いた大家としてのコメントが印象的です。加えて,「第9版までの共著者である和田肇氏の声が随所に残り,本書の血肉となっている」という気遣いも印象的でした。  

・水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて(新版)』(有斐閣)
  同一労働同一賃金の伝道師である水町さんの本の新版が早くも出ました。改正法の施行半年前の絶妙のタイミングであり,多くの実務家が手にとることになるでしょう。私とはこの問題に関する立場は全く逆であり,もちろん水町さんのほうが正統派で,私は異端派ですが,異端派が火あぶりにならないように,もう少し抵抗を続けていきたいと思います。

・黒田有志弥・柴田洋二郎・島村暁代・永野仁美・橋爪幸代『社会保障法』(有斐閣)
  有斐閣のストゥディアのシリーズの教科書です。最初は,このシリーズに対して消極的な印象をもっていたのですが,初心者にとって,ちょうど分量,内容とも良いレベルであり,印象は大きく変わりました。これは企画の勝利だと思います。先日は,このシリーズの行政学の『はじめての行政学』と,平野光俊さんらの『人事管理』(Kindle)を買いました。どちらも私費で買ったのですが,たいへん満足しました。このシリーズは新しい教養書としての地位を確立していくのではないでしょうか。今回の社会保障法も,ざっと読んだだけですが,最初の第一歩としては十分です。もっとも,これを3日で読み終えて次にステップアップしようとするとき,どのような本を読むべきかとなると選択が難しいかもしれません。

 

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