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2019年8月 7日 (水)

アスクル問題を考える

 一昨日の日本経済新聞の社説で,アスクルの問題が出ていました。オフィス用品通販大手のアスクルに対して,その約45%の株を持つヤフーが消費者向けネット通販サイト「LOHACO(ロハコ)」の事業譲渡を申し入れたことから,両社の関係が悪化し,先日の株主総会で,ヤフーと約11%を持つ第2位株主のプラスが,アスクルの岩田彰一郎社長の再任に反対し,岩田氏は再任されませんでした。これに加えて,ヤフーの社長解任の動きを批判していた戸田一雄氏ら,3人の独立社外取締役も再任されませんでした。
 上記社説では,「上場企業が子会社も上場させる『親子上場』の弊害が看過できなくなってきた。弱い立場に置かれている上場子会社の一般株主の利益を守る仕組みをつくるとともに,企業も日本特有の親子上場の数を減らす努力をすべきだ」とし,とくに「独立社外取締役は,中立の立場から一般株主の利益を守る役割を負っている。仮にヤフーが自分の方に有利な条件でロハコ事業を取得しようとしても,他の一般株主は対抗手段がなくなってしまう」と述べています。
 労働法的観点から言うと,支配株主と社長ないし独立社外取締役が真っ向から対立して,社長がクビになってしまうという事態は,従業員からすれば不安でたまらないでしょう(従業員のどれだけが社長支持であったかわかりませんが)。もちろん,会社で雇われて働くというのは,そういうものだということかもしれませんし,従業員には労働法上の保護が別に確保されているのだから,それ以上のことを労働法の観点から言うべきではないのかもしれません。取締役会への労働者代表が制度化されていない日本法の下では,従業員の発言権にも限界があります。
 ただ,今回の取引が,もしかしたらヤフーに過度に有利で,それがさらにはヤフーの親会社のソフトバンクに有利なものであり,結果,アスクルが搾取されているおそれもあり,もしそうならば,アスクルの従業員の犠牲の下に,ソフトバンクやヤフーが利益を得ることになります。従業員が,経営者の取引の失敗のせいで経営が傾いてしまうことは,労働法の解雇規制(労働契約法16条)の範囲でしか守ることができないかもしれませんが,経営問題が支配株主との取引に起因するとなると,釈然としないと感じる従業員も多くなるでしょう。
 ただ,会社法の観点からは,従業員のことよりもまずは少数派株主の利益を守ることが問題となります。支配株主が搾取して,会社の価値を下げてしまうと,その悪影響をダイレクトに受けるのは少数派株主だからです。もちろん会社の価値が下がると支配株主も損をするのですが,支配株主は個別の取引のほうで得をしているとすると,それで元が取れているかもしれないのです。
 今年の「骨太の方針2019」のなかでも,「④ コーポレート・ガバナンス」という項目があり,そこに「上場子会社のガバナンスについてのルール整備を図り,親会社は事業ポートフォリオの再編のための上場子会社の意義について説明責任を果たすとともに,上場子会社側については,適切なガバナンスの在り方を特段に明確にし,実務への浸透を図る」とし,「(ⅰ)実務指針  上場子会社のガバナンスの在り方を示し、企業に遵守を促す『グループ・ガバナンスシステムに関する実務指針』を新たに策定する。(ⅱ)東京証券取引所の対応等  『グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針』の実効性を高めるため,同指針の方向性に沿って,東京証券取引所の独立性基準の見直し等,上場子会社等の支配株主からの独立性を高めるための更なる措置等を講ずる。」ということが記載されています。
 親子上場が多いのは,どうも日本特有の現象らしく,外国人投資家からはあまり評判がよくないようです。子会社のガバナンスが効きにくいことなどが問題とされているようです。
 とくに経営者が支配株主との取引が会社の利益とならないと判断してこれを拒否し,社外取締役もそれを支持しているときに,支配株主が,この取引に反対している経営陣をクビにしてしまう事態は,会社法ではどのように考えられているのでしょうか。
 かつての同僚である,加藤貴仁・東京大学大学院法学政治学研究科教授が,東京大学法科大学院ローレビューVol.112016年)に寄稿されている「支配株主と少数派株主のエイジェンシー問題に関する覚書~社外取締役などにどこまで期待できるのか~」という論文を読んで勉強すると,少なくとも日本では,支配株主(親会社)が従属会社(子会社)ないし少数派株主に対して何らかの義務を負うとする会社法上の規定も判例もないとのことです。同論文では,独立社外取締役は,選任権のある支配株主の意向に反する行動をとることは難しいのではないかということが書かれていましたが,今回は,あえて反旗を翻し,社長に殉じるということが起きてしまいました。
 もちろん今回の騒動の背景には,岩田元社長の経営失敗という問題もあったようです。支配株主が,経営者の経営責任を追及するのは当然のことであり,それは経営者が創業者であろうとなかろうと関係ないことです。日本経済新聞の続報では,再任が認められなかった独立社外取締役の再任については,「ヤフーとプラスを除く一般株主からは93%95%の賛成比率だった。中立の立場から一般株主の利益を守る役割を負う独立社外取締役については,一般株主の大半は再任の意思表示を示していた」のに対し,「岩田彰一郎前社長の取締役再任議案への賛成比率は20.8%。両社を除いた賛成比率も75.74%で,業績低迷を反対の理由としたヤフーの主張が一般株主からも一定の支持を得たとみられる」,とされていました。
 とするならば,ヤフー側の社長解任は広く支持されており,独立社外取締役までクビにしてしまったことが行き過ぎだったということなのかもしれません。 
 会社には,会社の機関である,社長を頂点とする「経営者」,それから会社によっては,日本型雇用システムの下では社長をチェックできない一般取締役に代わり,独立した立場から経営をチェックする役割を担う「社外取締役や独立役員」がいて,このほかに,会社の所有者といわれる「株主」がいて,それは今回のように「支配株主」(とくにこれが上場会社である親子上場の場合に問題がある)とその他の「少数派の一般株主」(個人,法人)に分かれることがあり,さらに会社法上は表面に出てこないのですが「従業員」や他の「取引先」などもいて,こうした立場の異なる者たちの利益が複雑に絡み合っているのが会社という組織です。素朴な正義感からすると,これらのステイクホルダーのうち,最も強い立場にある者に,最も強い倫理性が求められるべきであり,そうだとすると,今回はヤフーやソフトバンクには,今回の社長や独立社外取締役の解任劇についてきちんとした説明を行うのが,「社会の公器」にかかわる者としての社会的責任のような気がします。

 というように,素人がダラダラと雑ぱくなコメントを書きましたが,現在の会社制度のもつ重要性を考えると,無関心ではいられない問題でした。会社法の専門家や経営学の専門家の意見も聞いてみたいものです。

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