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2019年8月12日 (月)

Bidenは大統領になれるか

 Trump大統領の再選にとって,民主党候補として一番手強いのはBiden元副大統領だと言われています。政治経験は長く(上院議員を636年),オバマ前大統領の副大統領時代の仕事ぶりの評価も高い彼は,白人層の支持もかなり得ることができそうです。過去2度の大統領選出馬への失敗に対する同情もあるかもしれません。
 ただBiden氏にも,いろいろ問題があります。親中派とされることはともかく,Wikipediaによると,19421120日生まれであり,すでに高齢76歳の高齢です。大統領に選ばれると就任時は78歳になっています。それに加えて私が注目しているのは,あのAnita Hillのセクハラ告発問題です。
 1991年,合衆国最高裁判所において,初の黒人判事であるThurgood Marshall が引退を表明したことから,当時のGeorge Herbert Walker Bush大統領(パパ・ブッシュ)は,その後任に保守系の黒人であるClarence Thomas判事を指名しました。連邦の最高裁判事は終身制であるため,その影響力は大きく,アメリカにおいて大統領が選ぶ最も重要な政治的ポストであると言われています(現在でも,Trumpが立て続けに保守系の判事を最高裁に送り込んで,大きな問題になっています)。
 最高裁判事は上院の承認が必要であり,慣例により,上院の本会議の前に,司法委員会で審議されます。Thomas判事の指名のときも,司法委員会が開かれましたが,そのときの委員長がBidenだったのです。ここから先は,映画「Confirmation」(https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0791YBL72)によるものとなりますが,Thomas判事には,セクハラがあったとの噂があり,Bush共和党政権と対立する民主党側は身辺調査をします。そして,かつてThomasが教育省やEEOC(雇用機会均等委員会)で働いていたときの部下であり,現在は法学部の教授であるAnita HillがThomasからセクハラにあっていたという情報をつかみ,彼女に司法委員会で証言するように依頼します。彼女は,こうした告発はやったほうが悪者になってしまうと言って渋っていたのですが,最高裁判事人事は,アメリカ人女性の人権に影響すると説得されて,証言をするのです。そのなかで,Biden委員長は,民主党員ではあったものの,あまりHillの告発に前向きに取り組みませんでした。むしろ,Anitaにセクハラの事実を克明に証言させるなど,二次的なセクハラといえるようなこともしています。全員が白人男性という司法委員会において,若い黒人女性が証言するという状況のなかで,彼女をサポートをできる立場にあったにもかかわらず,それをしなかったということで,これはBidenにとっては痛い汚点になってしまいました。最終的には上院の本会議では5248の僅差で,Thomas判事の指名は承認(confirmation)されました。Thomas判事は,まだ現役です。
 Thomasの経歴からは,彼が優れた法律家であることを示すものはありませんでした。また彼は,法的信条については徹底した沈黙路線をとっていました。それは4年前のReagan大統領のとき,Bork判事が最高裁判事に指名された際に,Borkの保守思想を警戒した民主党陣営から徹底的な抵抗があり,Borkもこれに正面から反論しましたが,最終的に指名は承認されなかったということが教訓となったと言われています(Borkは,その後,英語のスラングで,メディアなどで叩かれて公職につくことが認められないという意味の「動詞」 になり,上記の映画のなかでもThomas反対派から「bork されろ」という表現で出てきてます)。とくに,最大の争点であったのは,人工妊娠中絶の規制の違憲判断(1973年のRoe v. Wade事件)についての立場でした。Borkが最高裁判事になると,これが覆されかねないという懸念があったのです。Thomasは注意深く何も述べなかったのですが,その保守的思想から,Borkと同じと推測され,それがリベラル派からは批判の対象となっていました(これも現在,Trumpが保守的思想の最高裁判事を指名したことから,たいへん注目されています。州のなかには人工妊娠中絶を規制する法律を制定するところもあらわれ,連邦最高裁は,約半世紀ぶりに,これを合憲とする可能性が出てきたからです)。
 ところで,Thomasは,当初から,黒人だから判事になれたのではないか,という疑惑もありました。初の黒人最高裁判事であったMarshallの後任だったからです。Marshall自身は,引退会見で,「人種」を,誤った人を選ぶときのexcuse に使ってもらいたいくないと述べて,暗にThomasの適格性に疑念を示していました。会見での「there's no difference between a white snake and black snake; they'll both bite」(白い蛇と黒い蛇との間には違いはない。どちらも噛む)という発言は有名です。
 ThomasがHillに対してしたとされる行為は,身体的な接触のようなものではなく,不適切な発言や執拗なデートの誘いというレベルのものでした。そのことが,当時のBidenらを含む男性白人議員の対応を鈍いものにしたようです。多くの男性議員には身に覚えがあったからでしょう。しかし,前記のように,このときのBidenの対応が,いまとなっては汚点となってしまっているかもしれません
 セクハラがほんとうにあったかどうか,真実は不明なままですが,そのこと自体は,あまり重要ではありませんでした(Thomasとその白人の妻ら家族にとっては重要なことでしょうが)。最高裁判事の承認という一大政治ショーで,Hillの行動が大きく注目されたことにより,多くの女性たちに,男性が支配する現在の社会のままでは,女性は泣き寝入りになってしまう,だから自分たちも立ち上がろう,という勇気を与えたのです。Hillの勇気ある告発が,女性の政界進出へのきっかけを与え,社会を変えるきっかけとなったのだと思います。
 もっとも,その加害者(とされた者)が,黒人であったことは,人種差別と男女差別の政治的な問題としての優先順位(それがあるかどうかも議論がありましょうが)を逆転させるきっかけとなったのではないか,という気もしますが,このあたりはもう少し勉強してみたいと思います。
 そして現在。アメリカの人種差別問題は新たな次元に入りつつあります。白人たちが,自分たちは移民による被害者であり,あたかも自分たちの権利かのごとく移民排斥を主張し始めているのです。こんな時代だからこそ,リベラル派の民主党を長年背負ってきたBiden氏の出番という声が高まっているのかもしれません。若手のなかの急進的なリベラル派も勢いがあるものの,彼ら・彼女らではTrumpには勝てないでしょう。Biden氏の弱点は,皮肉にも男性で白人であるということかもしれませんが,それを乗り越えて,悲願の大統領ポストを得ることができるでしょうか。

 

 

 

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