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2019年6月11日 (火)

副業促進に思う

 規制改革会議の「規制改革推進に関する第5次答申」のなかに,副業・兼業の促進というのが入っていました。私も,副業についてはよく語ってきましたし(NHKの番組で話したこともありました),『会社員が消える-働き方の未来図』(文春新書)でも書いています(49頁以下)。ということで,関心をもって答申を読んでみたのですが,少し違和感をおぼえた部分がありました。「法定時間外労働は『後から結ばれた労働契約』で発生するという解釈により,主に副業の使用者が,時間外労働に対する割増賃金支払義務を負うとともに,時間外労働規制の上限規制の遵守の義務を負うこととなる。……本業の使用者における副業・兼業者の労働時間の把握・通算に係る実務上の困難や,副業の使用者における割増賃金支払義務等の負担感等から,企業が副業・兼業の許容や,副業・兼業者の受け入れに関して過度に消極的な姿勢に陥ってしまっている恐れがある」というところです。
 異なる事業場間での労働時間の通算に関する労働基準法381項の見直しは,私も数年前に中小企業庁の会議で,プレゼンしたことがあり,ようやくそれが具体的な提言になったかという思いですが,副業受入れ先の使用者が受入れを渋るという話はしていませんでした。そういう話を聞いたことがなかったので,驚きました。私が不勉強で知らなかっただけなのでしょうが,どこかに調査結果が出ていたのでしょうかね。
 労働基準法38条1項は盲腸のような規定で,ほとんど誰も意識していなかったものなので,この規定が企業の行動に影響を及ぼしていたとは考えにくい気もします。自分の従業員がどこの企業で副業をしているかを把握していることなどほとんどなく,わかっていたときも,そこでの労働時間数についてわざわざ問い合わせたりしないでしょうし,あるいは副業先の企業が,その労働者の本業の企業での労働時間数がどの程度であるのかを気にしたりすることなども,考えにくいことです。私が上記の会議で労働基準法38条1項に言及したのは,副業の促進をしようとする際に,あえていえばこの法律の規定が障害になるからだったのですが,通算は同一企業での異なる事業場間でなされるものに限定すると通達を改めればすむ話でもあります。厚生労働省に,とっととやってもらいましょう。しかも副業が自営であれば,そもそもこの規定は適用されません。あくまで雇用されている労働時間の通算の規定ですので。中小企業庁の問題意識も,むしろ,自営的副業のことにあったと記憶しています。上記の拙著では,副業が,自立的なキャリアを形成していくうえで有効だということも書いています(203頁以下)。
 副業というと,健康管理のことも言われますが,副業を許可したからといって,その企業に副業時の労働に関する安全配慮義務がかかってくるわけではありません。企業のなかには,副業を認めると従業員が過労になるのが心配だといって,副業に消極的なところもあるようですが,これは余計なお世話なのです。少なくとも法的には,副業を認めることにより(強制すれば別ですが),安全配慮義務が追加されるということはありません。企業は,従業員のエネルギーをできるだけ自企業に集中してもらいために,副業を渋るのであって,法的な健康管理責任に言及するのは,たんなる口実ではないかという疑念があります。
 ただ最近は企業の利益を考えた場合でも,副業を認めたほうがよいという考え方が広がってきているようです。日経ビジネスの65日号の「時事深層」でも,「みずほ銀行で副業解禁の方針」という記事が出ていました。ただ,この記事だけをみると,みずほ銀行は,方向性を打ち出しただけで,具体的にどう副業を認めていくかは未知数と思えます。記者には,就業規則におけるどのような規定で認めるのかまで,踏み込んで取材をしてもらいたいです。経営者が口に出すだけなら,それを報道することにあまり意味はありません(「AIを利用します」という経営者の言葉を採り上げることに価値がないのと同じです)。許容する副業の範囲,副業を認める手続(届出,許可など),例外的に許容しない事由などまで,しっかりみなければ,副業解禁に本気で取り組むのかについての評価はできません。なお,この記事では,安全配慮義務を労働基準法上の雇い主の義務としていましたが,労働契約法(5条)上の義務です。単なる書き間違いかもしれませんが,この種の間違いはいろいろなところでよく目にするので,いちおう指摘しておきますね。

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