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2019年3月17日 (日)

労働組合と総有

 法人格を取得していない労働組合は,「権利能力なき社団」に該当し,その財産は組合員全員の「総有」となる,というのが,判例の立場であり,どの労働法の教科書にも書かれていることです(学説としては,単独所有説も有力です)。 

 

 そこでいう判例とは,昭和321114日の品川白煉瓦事件の最高裁判決です。同判決は,「思うに,権利能力なき社団の財産は,実質的には社団を構成する総社員の所謂総有に属するものであるから,総社員の同意をもつて,総有の廃止その他右財産の処分に関する定めのなされない限り,現社員及び元社員は,当然には,右財産に関し,共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解するのが相当である。」という一般論を述べて,これを法人格なき労働組合にもあてはめています。組合から脱退した組合員が,たとえそれが集団的な脱退であって,事実上分裂したような場合であっても,元の組合の財産の分割請求はできないのが原則なのです(ただし,例外的に分割できる場合があるとする,昭和49930日の国労大分地本事件・最高裁判決もあります[学生が好きな論点]が,その例外の要件は厳格です)。

 

 それで「総有」ということなのですが,これは民法で共同所有権のところで出てくるものです。共同所有の形態には,共有,合有,総有があると説明されます。民法の条文として出てくるのは共有だけですが,(民法上の)組合では合有,権利能力なき社団では,先ほどの判例のように総有とされています。総有の特徴は,持ち分がなく,共同所有者は目的物の管理処分権はなく,使用収益ができるだけとされています。

 

 総有の典型事例が,入会地です。入会権は民法上の物権であり,林野などの土地に認められることが多いものです。これは古ゲルマンの村落共同体の所有形態にまで遡ることができ,農地などを共同体のメンバーが共同体的な規制の下で所有していた時代にあったものです。現在の日本でも入会地はあり,勝手に構成員が持ち分を処分できない点では,古き良き土地を守るために重要とされる一方,必要な買収ができない(全構成員の承諾が必要)などの問題もあるようです。

 

 話を元に戻すと,総有のもう一つの典型例が,権利能力なき社団です。前述のように,法人ではない労働組合も,これに該当するとされています。

 

 ところで,判例によると,「権利能力のない社団といいうるためには,団体としての組織をそなえ,そこには多数決の原則が行なわれ,構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し,しかしてその組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」とされています(最高裁判所・昭和391015日判決)。

 

 菅野和夫『労働法(第11版補正版)』(2017年,弘文堂)の792頁の注30では,この要件は,労働組合の定義における「団体」と同じであると書かれています。私もずっとそうだろうと思っていました。ただ,もしかしたら民法の社団概念は,もっと厳しいのではないか,と思わないわけでもありません。

 

 権利能力なき社団については,民法上,もう一つ重要な最高裁判決があります。それによると,「権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は,その社団の構成員全員に,一個の義務として総有的に帰属するとともに,社団の総有財産だけがその責任財産となり,構成員各自は,取引の相手方に対し,直接には個人的債務ないし責任を負わないと解するのが,相当である」とされています(最高裁判所昭和48109日判決)。

 

 権利能力なき社団となると,第三者との関係での責任財産は,構成員個人から離れるという重要な効果があります。労働組合ではあまり注目されない部分ですが,財産的取引を重視する民法では重要なポイントとなるでしょう。というのは,法人格がない団体という点でみると,権利能力なき社団と民法上の組合(民法667条以下)は似たようなものですが,前者であれば,責任財産は社団財産(社員の総有財産)に限定されるのに対して,後者であれば組合員の個人財産にも及んできて,取引の相手方にとってその違いは大きいです。

 

 そうすると,権利能力なき社団は,もともと民法学における概念であることを考慮すると,その定義では,財産の管理という点が重要となり,責任財産が明確化されていないような形で活動をしていると,社団性を満たしていないということにならないのかが心配になってきます(ただ,この点は民法の先生に確認してみる必要があります)。おそらく労働組合の団体性の定義では,財産の管理は内部的なものが重要で,対外的な責任財産という視点は希薄ではないかと思うのです。

 

 万が一,ある労働組合の社団性が否定されて,民法上の組合の規定が適用されると,違法争議行為のときの損害賠償責任について,個人責任を負うかどうかという著名論点はさておき,組合が責任を負うときに,組合員も直接無限責任を負うことになってしまいます。
 初めは,沿革的にも慣習の支配する(民法263条を参照)村落共同体的な入会地で適用される総有概念が,(法人格のない)労働組合に適用されることへの違和感から始まった話だったのですが,法人格なき労働組合が,当然に,権利能力なき「社団」で,その財産が総有となり,持ち分が否定されて,個人財産から分離されるということでよいのか,その前に一度,社団性の内容を確認する必要があり,それと労働組合の「団体」性(労働組合法2条)の解釈との照らし合わせをしておく必要があるのではないか,という話に行き着いてしまいました。昔の学説は,こういうことをきちんと議論していたのかもしれないのですが,もう教科書から消えている論点ですので,ほじくってみました。

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