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2019年3月 9日 (土)

非正社員改革

 中央経済社からの3冊目の単著です。『解雇改革』,『労働時間制度改革』に続く『~改革』の第3弾です。今回の本は,タイトルだけをみると,人事労務担当者に対して,現在の各企業の非正社員制度をこう改革すべきだ,というような実践的なことを書いた本のようにもみえますし,あるいは政府に対して,格差是正のためにこう改革をすべきだ,というような政策提言をした本のようにもみえますが,いずれでもありません。非正社員に対する政策的なアプローチの仕方を改革すべきであること,具体的には,法は余計なことをするな,というのが私の言いたいことのエッセンスです。

 前著の『解雇改革』は,私なりの改革プランをぶちあげて,その一部は,よりアカデミックなアプローチをした『解雇規制を問い直す-金銭解決の制度設計』(有斐閣)に結実しました。もう一つの『労働時間制度改革』は,今回の法改正に具体的なインパクトは与えていませんが,いろんな方から評価をいただき,確かな手応えを感じています。ただちに影響はなくても,5年,10年というスパンででも,私の主張が浸透していけば著者としては本望です。そして,今回の『非正社員改革』です。先ほど述べたように,法は余計なことをするななんて言っていると,規制緩和論のようなことをまだ言っているのかという表面的な反論が来そうですが,そういうことではなく,みんな格差是正を是とするところで思考がストップしているのではないか,それでよいのか,という問いかけをしているのです。

 この問題は,やや難しく言うと,私的自治,労使自治という根本的な法原理の問題,平等や差別とは何かという問題,採用や賃金などの労働条件のコアの部分に法が介入することの政策的妥当性という問題など,多くの解決すべき難問が関わっています。たんに非正社員の処遇がよくなればよいというだけではすまない問題が横たわっているのです。

 私は,これまでもずいぶんしつこく非正社員問題に法が介入することを批判してきました。古めかしい契約の自由にこだわっていると言われそうかもしれません。しかし,これについても10年後をみていろ,と言いたい気分です。原理を無視して,ポピュリズム労働法に陥った弊害は,必ず現れると思います。

 ということなのですが,実は本書では,将来は,正社員・非正社員問題はなくなるとも書いています。これは最近の『会社員が消える』(文春新書)でも,また2年前に出した『AI時代の働き方と法』(弘文堂)でもかなり論じていることですが,要するに正社員はなくなるし,ましてや非正社員もなくなるのであり(マシーンに代替される),真の格差問題はデジタルデバイドなのではないかというのが本当の論点なのです。政策的エネルギーをそこに傾注しなければならないのに,2020年4月のいわゆる「同一労働同一賃金」改革の施行に向けて厚生労働省は手取り足取りでサポートするなど,なんだかおかしなところにエネルギーを使っています(「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」なんかをみていると,行政は良かれと思ってやっているんでしょうが,日本全国の経営者があれを見ながら,賃金などを定めていく姿を想像するとゾッとしてしまいます)。

 2030年ごろに振り返ってみて,政府はあのときずいぶん無駄なことに力を入れていたよな,ということになるでしょう。いったい学者は何を見ていたんだろう,誰も何も言わなかったのだろうかと言われないためにも,本書を出した意味はあるのかな,と思っています。

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