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2019年2月16日 (土)

雇用仲介と手数料

 長文のブログです。テーマは,労働法のマイナーな論点です(司法試験には出ません)が,実務的には重要なものです。

 ビジネスガイドの最新号で「リファラル採用」を採り上げたのですが,そのなかで扱った法的論点の一つが,職業安定法40条の解釈です。リファラル採用は,社員紹介制といって,これまでも存在していたものの一種といえますが,最近,専門的な職種について,餅は餅屋というか,蛇の道は蛇というか,同じ業種の専門家のほうが良い知り合いの材を紹介してくれるし,あるいはそうした人材の見つけ方を知っているということがあって,こうしたリクルート方式が注目されています。これは,職安法の規制する「労働者の募集」に該当するかがまず問題となりますが,職安法上,「労働者の募集」は,「労働者を雇用しようとする者が,自ら又は他人に委託して,労働者となろうとする者に対し,その被用者となることを勧誘すること」であり(45項),これに該当することは間違いないでしょう。現在,「労働者の募集」をする活動について規制の対象とされているのは,被用者以外の者に有償で労働者の募集に従事させる「委託募集」です(36条)。委託募集は,他の雇用仲介サービスと違って,委託した企業のほうが厚生労働大臣の許可を得て,また報酬額について認可を得る必要がある点に特徴があります。職業紹介であれば,許可を得なければならないのは,その職業紹介業者のほうであって,求人の申込みをした企業ではないからです。無償の委託募集でも届出が必要です。

 「労働者の募集」におけるもう一つの規制は,報酬関係です。労働者の募集を行う者(企業)も,有償ないし無償の委託募集に従事する「募集受託者」も,募集に応じた労働者からの報酬を受領が禁止されています(39条)。そして,もう一つある規制が,労働者の募集を行う者(企業)が,労働者の募集に従事する被用者または募集受託者に対して,賃金,給料その他に準ずるもの,または認可された報酬以外の報酬を供与することの禁止です(40条)。

 従業員となる人を紹介した従業員が特別な報酬をもらうと,この職安法40条に反するのか,反さないとすれば,それはどのような場合か,ということが問題となります。ネットでは,あまり確かな根拠のない議論が流布していますが,今回の原稿で,試論を提示してみました。従業員が企業に業務として命じられた紹介活動は業務なので,それに対する賃金をもらうことに問題はないが,業務としてではなく命じられた紹介活動は,一般の委託募集と変わらない規制(許可制と報酬の認可制)を受けるべきではないか,というものです。業務として命じられた場合には,賃金(あるいは特別手当)をもらえる以外に,社会通念上それに要する時間は労働時間にカウントされるし,その途中でケガをした場合には労災になるという見解です。

 これは職安法をにらんで考えた試論にすぎないので,いろいろ反論もありえると思います。これをきっかけに議論が活性化すればよいと思います(事業として行う場合しか規制対象とならないとか,相当な手当であれば,業務として行うかどうかに関係なく規制対象外とならないとか,いろいろな見解がありえます)が,そもそも委託募集の規制がどうあるべきかというところからも議論をする必要があります。確かに立法論としては,誰かに何かを頼んだときに,常識的なお礼をする程度であれば,法は介入しないということはあってよいという気もするのですが,その一方で,労基法6条はなお重いものです。雇用の仲介にお金が絡むことには慎重であるべきだという趣旨は,ちょっと堅苦しい気もしますが,今日でも維持すべきなのでしょう。

 これとやや似ているのですが,区別したほうがよい話があります。労働者派遣法30条の雇用安定化措置の一つとしてある派遣先への直接雇用がなされた場合について,派遣元が職業紹介の許可も得ているとき,紹介手数料をとってはいけないという,厚生労働省のQA(下記)をめぐってです。規制改革会議で議論されているそうです(八代尚宏先生からうかがいました)。

 

Q4: 雇用安定措置の一つである「派遣先への直接雇用の依頼」を派遣会社に実施してもらったのですが、派遣先からは、派遣会社に職業紹介手数料を支払うことができないので直接雇用できない、と言われています。この場合、派遣先は派遣会社に対し、職業紹介手数料を支払わなければならないのでしょうか。
A4:「派遣先への直接雇用の依頼」は、職業安定法上の職業紹介ではないので、派遣先は同法上の職業紹介の手数料を支払う義務はありません。
また、派遣先は、正当な理由なく、派遣先と派遣労働者の間の雇用契約を実質的に制限するような金銭については、支払う義務はありません。
「派遣先への直接雇用の依頼」は、派遣会社が労働者派遣法に基づき講じなければならない雇用安定措置の一つであり、派遣労働者の雇用の安定を確保し、派遣先での直接雇用に結びつけることを目的としたものです。これは、職業安定法上の職業紹介ではないので、派遣先は同法上の職業紹介の手数料を支払う義務はありません。
また、派遣会社と派遣先との間で金銭の授受があることにより、「派遣先への直接雇用の依頼」が不調に終わることは、雇用安定措置の趣旨に反するおそれがあり、問題があります。
なお、「派遣先への直接雇用の依頼」に際して、派遣会社と派遣先との間で金銭の授受があることなどにより、派遣先と派遣労働者の間の雇用契約を実質的に制限することとなれば、実質的に労働者派遣法第33条第2項に違反することにもなり得ます。

 

 厚生労働省が,このような判断をした理由の第1は,労働者派遣法3011号でいう「派遣先に対し,特定有期雇用派遣労働者に対して労働契約の申込みをすることを求めること」(直接雇用の依頼)は職業紹介ではないこと,第2が,手数料をとることは,労働者派遣法332項の「派遣元事業主は,その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で,正当な理由がなく,その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない」(派遣元による派遣先の雇用を制限する行為の禁止)という規定に実質的に違反すること,のようです。

 第1の根拠については,労働者派遣法301項の雇用安定措置上の義務の履行であることと,職業紹介であることとは両立しないのかが論点となります。私は,労働者派遣法が義務づけているのは,4つの雇用安定措置のオプションのうちの一つを講じることにすぎず,直接雇用の依頼そのものを義務づけているのではないこと,および,法が与えた4つのオプションのなかの一つを選択して行った行為が,職安法41項の定義する職業紹介(「求人及び求職の申込みを受け,求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」)に該当するにもかかわらず,これを職業紹介に該当しないとするには,明確な根拠規定が必要と考えられるが,そうした規定は見当たらないことから,厚生労働省の見解には十分な理由がないと考えます。

 たしかに,法律上の直接的な義務の履行をしたのに手数料をもらうのはおかしいという考え方はありうると思いますが,労働者派遣法30条が派遣元に義務づけているのは,上述のように,4つのオプションのどれかにすぎません。そうだとすると,この規定は,派遣元に対して,手数料をとって職業紹介をして派遣人材を手放すか,それとも派遣人材を手放さないで派遣元で雇用を安定化する措置を講じるかの選択肢を与えた規定と解すのが妥当だと思います。

 第2の根拠については,直用化の際に派遣元と派遣先の間でかわされる契約は,手数料はとるが,派遣先での雇用を認めるという方向のものなので,33条の趣旨には実質的にも反しないし,むしろそれに沿ったものと考えられます。たしかに,手数料が高ければ,派遣先での雇用が進みにくいという事実上の影響はあるかもしれませんが,法的には,職業紹介に手数料を認める以上,そうした事実上の影響が出ることはやむを得ないことであり,しかも手数料は,職安法により規制されていることも考慮しなければなりません(32条の3)。

 また,派遣元が適法な範囲できちんと手数料をとれるようにすることは,派遣元から派遣先への労働者の移行をスムーズに進める効果が期待できるので望ましく,それこそが,労働者派遣法33条の趣旨に合致する解釈であると考えられます。

 上記の社員紹介制度の報酬とは逆の議論をしているように思えるかもしれませんが,派遣労働者の直用化は社員紹介の場合とは異なり,法律が仲介自体を求めているもので,望ましいとお墨付きを得ているものであり,労基法6条の世界とは無縁なものとみることができるので,結論が変わってくるのです。

 そもそも厚生労働省の解釈では,手数料が高いから直接雇用ができないといった口実で,無料で人材を確保しようとする派遣先企業を利することになることの問題性をしっかりみるべきだと思います。これまであれだけ批判の対象であった派遣先が,直接雇用をしてくれるとなると,ただちに善玉になり,派遣元に無料奉仕を強いるということにならないでしょうか。

 雇用仲介法の分野は,ほとんど研究者が手を出していません(教科書としては,鎌田耕一『概説労働市場法』(三省堂)があります)。規制緩和論として小嶌典明先生が長年,孤軍奮闘して論陣を張ってきましたが,それに続く研究者が出てきていないように思います。研究対象としてみれば,まだ豊富な宝が眠っている山かもしれませんよ。

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