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2019年1月25日 (金)

統計不正問題

 厚生労働省の「毎月勤労統計」に不備があったことが大問題となっています。この不備が,どれくらいの影響があるかについては,よくわかりません。ただ,少なくとも雇用保険や労災保険の給付(スライド率に影響)については,一件ごとの平均はそれほど多額ではなくても,関係している人数が大きいので,トータルではかなりの額となっているようです。

 それ以上に困っているのは,経済学者ではないでしょうか。この統計を活用して実証研究をしてきた人も多いと思われるからです。法学者は,統計を使うことがあっても,通常,大きな傾向を把握するといった目的で使っているにすぎないので(法社会学者は除く),細かい数字の問題については気にしていないことが多いでしょう。しかし,経済学者は,統計の正確性は論文のクオリティに直結するはずですので,今回の統計の誤りがどの程度のインパクトをもたらすのか,とても心配です。ましてや政策立案において,統計が誤っていれば,その影響は甚大なものとなります。エビデンスによる政策の基盤が崩壊してしまうからです。

 どこの国の統計でも,政府が出すものは,政治的な思惑でゆがめられていないかという視点でみておくことは必要でしょう。ただ,日本では,多くの専門家が統計を使っていることから,さすがに信用できるのではないかと思っていました。しかし実は,この信用も,役所がきちんとデータを収集しているという性善説に依拠していたのですね。

 イタリアでは,ISTATIstituto Nazionale di Statistica:国家統計局)という統計を専門にする国家機関があり,イタリアの統計を一手に引き受けています。ISTATが どこまで政治から独立しているのかよく知りませんが,それでも労働統計は,ここから引用しなければ,信頼性がありません。日本には,こういう国家機関がないのですね(いちおう総務省統計局がこれに該当するのでしょうか)。政府統計を一手に引き受ける独立した専門的な機関を設けるべきではないでしょうか。

 厚生労働省はピンチです。統計の軽視と隠蔽体質が合わさり,国民からの信頼は地に落ちています。

 ただ,私はいつも言っているのです。そもそも役人が言うことややることをそのまま信じてはなりません。役人は組織の人間です。組織のために働いているのです(会社員だって,多くの人は,会社という組織のために働くので,同じことです)。彼らの行動基準は組織のためになるかどうかです(若手のほとんどは国家国民のために働くという志をもって入省するのでしょうが,数年経つと組織の人間になってしまいます)。問題は,組織の利益と国民の利益が,必ずしも合致していないことです。だから,国民は,役人の言うことを基本的には疑うという姿勢をもつ必要があります。彼らは優秀ですが,その優秀さは,組織の維持のために活用されがちです。そういう観点からすると,今回の不正問題が起きたことは,まったく不思議なことではありません。

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