2020年9月21日 (月)

アメリカの最高裁判事

 アメリカ連邦裁のGinsburg判事が死去しました。ご冥福をお祈りします。体調が厳しい状況であることは数年前から知られていましたが,彼女が亡くなるとリベラル派がまた一人減り,Trumpが最高裁判事を指名すると(上院の承認は必要),保守派がいっそう増えることになるので,彼女は自分は死ぬことができないと頑張ってきたのでしょう。しかし,ついに力尽きました。アメリカの連邦最高裁の判事は保守とリベラルが明確に分かれていて,とくに国論を二分するような重要イシューでの違憲・合憲判決は,政治的にも大きな影響があるので,最高裁判事に誰が指名されるのかはアメリカ国民の大きな関心事です。Trump はすでに保守派の最高裁判事を2名指名しています。いずれも50歳代です。アメリカの最高裁判事は終身制ですので,若い判事を選ぶと,その在任期間が長くなる可能性が高くなります。いまは大統領選挙の前ですので,最高裁判事の指名は,次の大統領に任せるか,再選後指名するというのが良識的な対応のような気がしますが,Trumpはそういう行動をとらないでしょうね。
 日本では,国民が最高裁判事を罷免させることができます。「最高裁判所裁判官国民審査」制度です。罷免したい判事の名前の上に×をつけ,その数が上回れば,罷免されます。ちなみに行動経済学的にはデフォルトの設定が重要で,罷免したくない判事に○をつけるということにすれば,たいへんなことになるでしょうね。衆議院選挙の総選挙と同時に行われますが,国会議員の選挙と同じようなノリで国民審査はしてもらいたくないですね。国民審査の意義を高めるためには,最高裁判事にどういう人が選ばれて,どういう判決を出していて,とくに少数意見や補足意見などを書いたときに,その内容を紹介するといったことが,もっと行われてもいいと思います。これはおそらくジャーナリストのなかに法律に詳しい人が圧倒的に少なく,国民にわかりやすい情報を伝えることができていないことも関係しているように思います。
 ところで,昨年812日のこのブログで「Bidenは大統領になれるか」というタイトルの記事を書きました。Bidenが大統領になる道の険しさを書いていたのですが,いろいろあったものの,結局,Bidenが民主党の指名候補になりました。ライバル候補がレフトすぎて,これではTrumpに勝てないと判断されたのかもしれませんね。民主党は中道の適齢の人材が不足していた気がします。
 どちらが大統領になるかわかりませんが,政敵を公然と徹底的に攻撃するというTrumpのやり方は非常に不快であり,子どもの教育にも良くないし,その理由だけでも表舞台から去ってもらいたいです。しかし,そんなTrumpもBidenといい勝負で,再選の可能性があるというのは,いかにリベラル嫌いのアメリカ人が多いのかということも示していますね。Obama時代の政治には,光もあったでしょうが,陰もあったので,それに戻りたくないという人がかなりいるのでしょうね。日本人にとっても,アメリカの大統領が誰になるかは極めて大きな問題です。投票権はないですが,アメリカ人よ,良く考えた選択をしてくれ,と願っています。

2020年9月19日 (土)

労災補償保険制度の比較法的研究

 JILPTの報告書『労災補償保険制度の比較法的研究-ドイツ・フランス・アメリカ・イギリス法の現状から見た日本法の位置と課題』をお送りいただきました。執筆者は,山本陽大(JILPT)・河野奈月(明治学院),地神亮佑(大阪大学),上田達子(同志社大学)の4名です。どうもありがとうございました。労災保険法制度に関する基本的な情報に加え,複数就業者,テレワーカー,独立自営業者という新しい問題に関する情報を横断的に調査するもので,貴重な報告書だと思います(情報があまりない国もありますが,制度がないということも情報の一つです)。私自身の関心は,とくに独立自営業者にあり,個人的には,雇用労働者の労災保険の拡大ではなく,労災保険の存在理由というものから根本的に問い直して,新たな共済のシステムの構築を目指す必要があると考えています(私の問題関心については,拙著『デジタル変革後の「労働」と「法」』(日本法令)275頁以下でも若干ふれています)。
 本報告書では,総括のところで,日本法の今後についてふれられ,「特別加入制度の適用対象の拡大が検討されることになろう」となっています。また「労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会において,特別加入制度の対象範囲の拡大や特別加入団体の要件の見直し等について,議論が行われる予定となっているが,このような方向性は,比較法的観点からもその妥当性を首肯することができよう」というのは,クライアントの厚生労働省への気遣いも含まれているでしょうかね。末尾の「使用者の災害補償責任を定める労基法第8章が現代において持つ意義と,それを踏まえた労災保険制度の法的性格付けについても,改めて議論ないし検討すべき時期に来ているように思われる」というのはまったく同感ですし,さらに上記のように労災保険制度の根本的な見直しが必要だと考えています。
 こういうことを書くと思い出すのは,いまから20年くらい前でしょうか,労働省の研究会に呼んでいただき,労災保険制度について自由に議論してよいという当時の課長の意向で,ほんとうに自由に議論をしていて民営化論とかもやっていたのですが,途中で課長が替わり,方向性が変わってしまい,あるときの会合で突然,いままで来たことがなかった人たちが席に座っていて,まるで勝手な議論を許すまじというような圧力をかけてくる雰囲気になったことです(私の主観ですが)。あれ以来,どうせ労災保険制度は本質的なところでは変われないだろうなと思っています。現在の受給者の不利益変更はダメですが,これからの制度をどうするかということを考えるときには,健康保険や国民健康保険との関係も視野にいれた,もっと大胆な議論をする必要があるはずです。厚生省と一体化した現在なら,以前より自由に災害補償のあり方について議論できる土壌があるのではないかと思うのですが,どうでしょうかね。それに重要なのは,労災についても,従来の20世紀型社会とデジタル技術中心の21世紀型社会とでは,内容がまったく異なることになることです。ぜひ,この報告書をきっかけに,デジタル社会の労災とはどういうものかを視野に入れながら,斬新で新たな統合的な災害保障システムを論じる研究が出てきてほしいですね。




運動不足解消

 テレワークの問題は,運動不足になることですよね。テレビ体操は前からときどきやっていましたが,この1年くらいは毎日欠かさずやり,最近は13回必ず約10分ずつやっています。朝は朝食前にNHKの教育テレビの625分からのテレビ体操を録画してやっています(同じ曜日は同じ体操ですが,何ヶ月か経てば変わります)。これで身体がずいぶんとほぐれます。昼は昼食前にYouTubeの自衛隊体操と超ラジオ体操をやります(あわせて7分くらいですが,自衛隊体操はとてもハードで,超ラジオ体操はとても気持ちいいです)。そして夕方には,録画している5分もの(1455分からのもの。現在は1355分からのもの)を二つ組み合わせて10分やります。朝のテレビ体操で「みんなの体操」が入っていなかったとき(例えば日曜日)は,必ず夕方にやることにして1日に1度は「みんなの体操」をします。おかげで,ほぼ一日中デスク仕事ですが,腰痛はなく(これはテンピュールのクッションのおかげでもあります),肩こりもときどきありますが,なんとかだましだまし切り抜けています。前はウオッチを付けて,眠りの深さとか血圧や呼吸も測っていたのですが,数値が安定していることもあり,いまは中断中です。
 という状況のなかで,最近MIZUNOの「リングレッチ」が加わりました。クッションですが,これを使って軽いエクササイズができます。モノはできるだけ増やさない方針なのですが,健康関連だけはどうしても必要だと思ってしまいます。でも良い買い物をしたと思っています。
 体重計は,長く使っていたものが壊れてしまったので,これも悩んだすえにRenphoの体重計を買いました。50グラム単位まで測れるので助かります(変化が細かくわかります)。毎日,朝と夜に体重計に乗ってスマホで管理しています。骨密度が少ないとか,いろいろ教えてくれるので,サプリを買って対応したりもしますが,サプリはすぐに飽きてしまい,テレビ体操ほどは長続きしませんね。でも痛風予防の明治のヨーグルトの「PA3」はずっと続けています。いまは体内年齢を実年齢に到達させることが目標です。

 

 

 

 

2020年9月18日 (金)

スピード感がほしい

 新内閣がデジタル改革に力を入れると聞いて,いよいよこれで日本も変わるかと楽しみにしていたのですが,デジタル庁の発足が20224月だと知って,ずっこけました。組織をつくるなんてことは後からでよくて,まず行政事務のデジタル化に向けた大号令を掛けるのかと思っていたのですが。1年半もかけていれば,そのうちうやむやになるし,そのときは別の内閣になっているかもしれません。このスピード感のなさが残念です。改革は,仕事に取り組む意識からまず行う必要がありそうです。
 じっくり検討して,関係する省庁の意見も聞いて,党のお偉方の意見も聞いて,海外も視察して,民間人の意見も参考にして,なんてやっていると,あっという間に半年くらい経過して,その間は何も進んでいないなんてことが起きてしまいます。民間人も入れた少人数のタスクフォースに全面的に権限を委譲して政策の立案と執行をまかせ,責任は大臣と首相がとるくらいの気構えでやってもらわなければ改革をめざす内閣とは言えません。
 デジタル技術のメリットは,くだらないことは機械に任せて効率性を高め,人間が本来やるべきことや,やりたいことに集中できるようにすることだと思います。デジタル改革大臣の使命は,デジタル技術の恩恵を,少しでも早く国民に浸透させることです。例えばデジタル化が遅れているため,コロナ対策ができず,事業継続が危なくなっている中小企業に,すみやかにデジタル技術の導入とその活用指南を行うといった施策はできないものでしょうか。所管が違うのかもしれませんが,首相命令でやればいいのです。アベノマスクのような明らかに無駄なことに使う金があるのですから,やろうと思えばやれるのだと思います。

2020年9月17日 (木)

業績の電子化

 在宅生活が続くなか,何かを書くときに困るのは,電子化されていない文献の収集です。何かの文献に引用されていて読みたいと思っても,電子化されていないものであれば,インターネット経由で入手できないので困ります。私は,コロナ中でも,月に1~2度は大学に行って,図書館で所蔵されている文献を,一挙にまとめて調べるということをしているのですが,できれば自宅でできれば有り難いですよね。そういう自分も,自分の書いたものがすべて電子化されているわけではなく,もちろん電子化する価値があるわけでもないのですが,今後は出版機会があればですが,電子書籍としても出すことになるでしょうし,ゆくゆくは電子オンリーとなると思います。
 今後は,デジタル化されていない文献は,存在していないものとされてしまうかもしれません。歴史を研究しているならさておき,そうでなければ,アクセシビリティの低い文献が無視されることは,これまでも行われてきたからです。どうしても読んでもらいたい文献は自分でPDF化して,(出版社の許可を得る必要があるかもしれませんが)自分のSNSやHPにアップするということになるかもしれません。そうなると引用方法も変わってくるでしょう。
 さらに進んでいくと,自分で勝手にHPにアップして業績として主張する人も出てくるかもしれません。こうなると,きちんとしたレビューが必要となるでしょう。季刊労働法でやっていた第3期文献研究は開店休業状態ですが,文献について専門家がこれこそが読むべきものだと精選して情報発信していくことの重要性は,今後ますます高まるでしょう。その点では,日本労働研究雑誌の学界展望も重要なのですが,誰が担当するかが難しいですね。

2020年9月15日 (火)

人命を軽視するな

 少し前の日経新聞で,30歳未満の若手男性官僚の7人に1人が,数年内に辞職する意向であることが,内閣人事局が実施した意識調査で分かったという記事が出ていて驚きました。そのとき,2つの正反対の印象をもったのですが, 1つは意外に少ないなという驚きです。たしかに,せっかく難しい試験を突破して入省したのだから,そう簡単に辞めてしまったら,もったいないです。しかし,安倍政権のもとでの官僚に対するぞんざいな扱い(側近の官僚だけは重用する)や以下の赤木さんの事件への対応などを見ていると,これでは仕事へのモチベーションが上がらないのではないか,と思っていたので,そのような観点からは7人に1人は少ないなと思ったのです。ただ,これだけの割合で若手が辞めていくのは,やはりちょっと多いなという意味の驚きもあり,それだけ霞ヶ関で働くことにはブラックな要素があるんだろうなと思ってしまいました。
 そこでどうしても気になるのが,財務省の近畿財務局における公文書改ざん問題で職員が1人自殺をしていることです。長時間労働によって精神的な疲労によりうつ病を発症して自殺をするというケースは,労働判例でもよく出てきます。ただ普通は長時間労働だけで,なかなかうつ病にはならず,自殺の事案ではパワハラ等の職場環境からくるすさまじいストレスが原因となっていることが多いのです。赤木さんのケースでも,公務員にとって組織は重要とはいえ,公務員の命ともいえる「文書」の改竄を組織によって強要されるのは,自分のこれまでの生き方が否定されたようなもので,そのストレスたるや想像を絶するものだったのでしょう。問題は,その後の政府の対応です。多くの人が批判しているので,私はとくに繰り返しませんが,少なくとも麻生財務大臣は最高責任者として辞任すべきだったと思います。電通の高橋さんの自殺事件でも,社長は辞任していました。それが普通の感覚です。麻生さんに個人的には何も思うところがありませんが,きちんとけじめをつけていないことには不満があります。噂では新政権でも重要閣僚ポストに就くということですが,それはとても許容される話ではないと思います。組織の犠牲となって1人の命が失われていることについて,まともな感覚をもっていない人が政治をやるようでは困るのです(もちろん事の発端となったのは安倍首相ともいえるので,知らんぷりは人間として許されないでしょう)。
 これは公務員の事案ですが,ある意味で労働法の問題でもあります。上司から違法なことをするように命令を受けたとき,労働者はどうすればいいのか。拒否すればいいと言うのは簡単なことですが,真面目な人ほどそういうことができないのです。公益通報者保護法はこういう場合に助けとなるために作られた法律ともいえるのです(公務員は適用除外。同法7条)が,現実には在職中に内部告発をすることは簡単なことではありません。ましてや国家公務員の場合には難しい面があるのでしょう。真面目で正義感のある労働者が組織の犠牲となって命が失われたことについて,他人事ではないという気持ちをもっていなければならないでしょう。遺族の方が民事訴訟を起こしているようですが,新首相はこの問題の政治責任から逃げずに,まずは遺族に向き合って真相を究明するところから取り組んでもらいたいです。人命を軽視する人に,首相を任せられません。

2020年9月14日 (月)

期待はしていないが……

 第2次安倍政権が終わろうとしています。第2次安倍政権の官房長官であった人が政権を継承することになりそうです。今回の自民党の総裁選は,権力にへつらう男達の醜態を見せてしまいましたね。
 雇用政策について,私は第2次安倍政権の初期の頃は,長期政権になることを予想して,国民に厳しくても将来に役立つ政策をやってもらえればと期待していました。しかし,「働き方改革」は,たいへん話題にはなりましたが,その内容は言われているほどのものではなく,10年後には忘れ去れているでしょう。私は真の改革はこれじゃないと訴え続けてきましたが,あまり誰からも耳を傾けてもらえませんでした。
 菅さんは,縦割り行政を壊すと言っていますが,壊して何をやるのか,もう少しはっきりしてくれなければ困ります。イエスマンだけを集めるのを目指そうとすると,日本の官僚のなかの若い優秀層は逃げていき,無能な政治家が支配する恐ろしい社会が到来するでしょう。民主主義と独裁制は両立します。私は石破氏のことはあまりよく知りませんが,納得という言葉を使っていたことには賛同します。私はいま,納得をキーワードとした労働法の再構築を考えていますが,政治の世界でも,国民への納得を最優先にしてもらいたいです。そのためにも大切なのは,情報提供と真摯な説明です。安倍政権にまさに欠けていたことです。菅さんにできるでしょうか。
 具体的な政策では,携帯料金を下げるのは結構ですし,ふるさと納税を自慢するのも結構ですが,そうした国内問題だけでなく,いまの日本の置かれている状況を大局的にとらえてもらいたいです。第2次安倍政権を振り返ると,トランプと話せることは強みでありましたが,いろんなものを買わされるだけに終わったのではないか(国民の税金でトランプの友情を買っただけではないか),北朝鮮政策は何もできなかったのではないか(いまや全く相手にされていない),中国の増長を許したのではないか(国内の媚中派に取り込まれ無策のままだった),ロシアとはたんに会談しただけに終わったのではないか(北方領土をどうするのか国民にはっきり言うべき),韓国との関係も有効な打開策をとれなかったではないか(けんかしたり無視したりするだけなら,誰でもできる),欧州とどのように付き合っていくのか(親しく話せる欧州のリーダーがいたか)といった疑問が次々と出てきます。これらの点について,新首相がどのようなことを語り,問題の解決にどのようにリーダーシップを発揮するのか注目です。
 経済は,デジタルシフトをきちんとできるかが重要です。デジタル庁をつくるとか言っていますが,何と言っても,いまのIT担当大臣のような不適任きわまりない大臣がいることについて,官房長官としてその責任を痛感してもらわなければなりません。安倍政権がデジタル化に本気に取り組んでこなかったことは明らかです。だから,現在の惨状があるのです。安倍政権の官房長官であった人がデジタル化と語っても,その本気度を信用できません。ほんとうはデジタル化はずっと前に取り組んでおくべきことであり,そこから先の政策をやらなければならないのです(デジタルデバイド対策など)。行政や社会のデジタル対応ができてはじめて経済の発展も期待できます。すでに1周以上遅れている私たちの社会は,いまや後進国に入りつつあります。デジタル技術という点では,中国はもとより,韓国も,台湾も,日本より先を走っています。このままでは,優秀な日本人は日本を見限り,優秀な外国人は日本をパスしてしまいます。
 自民党の総裁選をみて,政治の人材不足は危機的な状況になっているように思えました。しかし,私たち市民にできることは限られています。残念ながら新首相に期待するしかないのです。外交とデジタルシフト(経済・社会),防災対策と環境対策,せめてこれだけでもきちんとしてくれればと思いますが,どうなるでしょうか。

2020年9月13日 (日)

嘘を愛する女

 自宅にいる時間が長くなると,ちょっと気分転換という口実を自分に与えて,Amazonのプライムビデオをみることが増えました。いろんな映画をランダムにみていますが,何日か前に,長澤まさみ主演の「嘘を愛する女」をみました。どこかでみたことがある気もするけれど,どうしてもストーリーが思い出せないので,予告編でもみたのかなと思いながら,最後までみました。以下,ネタバレあり。
 由加利は,小出桔平と5年前から付き合っていて,そろそろ結婚をと思い,彼を紹介するため彼女の両親を呼んで食事をすることにしましたが,約束の場に桔平は現れませんでした。実は桔平はくも膜下出血でたおれて病院にかつぎこまれていたのです。一命はとりとめたものの,意識がもどらない状態にいました。しかし,そこで衝撃の事実がわかりました。病院で働く医師であると言っていた彼がもっていた職員証は偽物で,名前も偽名。彼は身元不明人だったのです。彼の所持品のなかにコインロッカーの鍵があったことから,そのロッカーをみつけだし,そこから出てきたのがパソコンでした。彼はパソコンをつかって小説を書いていました。若い夫婦と男の子が出てくる家庭小説です。しかし,場の設定は瀬戸内海でした。その描写の細かさから,彼の出身地が舞台で,彼がその家族について書いたものではないかと推測されました。由加利は私立探偵の海原と,彼が誰なのかを探る旅に出ます。そこでわかったのは,彼は働き盛りの医師で,妻子がいたこと,そして妻が育児ノイローゼになり子を殺してしまい,妻も自殺をしていたことでした。彼は自分を責め,自分の過去を捨てるため東京に出てきたのです。由加利は,彼がかつて住んでいた家を見つけ出しました。そこにはまだ幼い子のいる家庭の雰囲気が残っていました。ところが,海原はあることに気づきます。部屋に残されていた家族写真に写っていたのは女の子でした。小説に出てくるのは男の子だったのです。
 由加利は,桔平に,男の子が欲しいな,と語ったことがありました。小説のなかには,そのほかにも,由加利と桔平の間で交わされていた会話がしっかり書かれていました。由加利も海原も,桔平がずっと自分の過去の家庭を振り返って小説を書いていたと思っていたのですが,実は,桔平は由加利との幸福な生活を想像しながら小説を書いていたのです。由加利は,桔平の愛を疑った自分を責め,彼の快復を祈ります。
 恋愛小説というのは,会いたいのに,なかなか会えないという「すれ違い」ものが多いですが,この場合,会えているけれど会話ができないという設定になっていて,これは上手だなと思いました。
 という映画だったのですが,実は小説で先に読んでいたことが,昨日わかりました。部屋の本棚を整理していると,この小説がひょっこり出てきたからです。こうやってブログにでも書いていれば記憶に残っていたのでしょうが。肝心なところはすっかり忘れていたので,映画ではしっかり感動させてもらいました(上記のあらすじは,小説をベースにしていますが,映画の部分も取り込んだものです。小説では,会話ができない桔平の気持ちが書かれていて,いっそう切なくなります)。

 

2020年9月12日 (土)

ウイルスの言い分?

 ずっと引きこもりでいたのですが,労働委員会の担当事件だけはそういうわけにも行かず,まだリモートでやる態勢が整っていないので,今週は久しぶりに外出しました。手続のオンライン化は,都道府県労委だけではどうしようもないので,中労委がぜひ音頭をとってオンライン審査の確立に取り組んでほしいです。審問の公開性は,オンラインで動画配信という形でやったらどうでしょうかね。公開するということは,国民の目にさらすということなので,それだったら動画配信が最も徹底したものといえるでしょう(もちろんプライバシーの問題があれば非公開にすればいいですし,そうでなくて公開されたら困るという当事者は和解に応じやすくなるでしょう)。
 今回は,審問室の感染対策が十分にしてあって,不安はありませんでした。事務局の方の努力に感謝です。ただ,県庁に行くまでの(というより帰りの)電車は恐怖でした。ラッシュアワーにぶつかったこともあり,完全に密の状態で,高校生は大声で話しているし(君たちは感染しても大丈夫そうだから羨ましいな),換気は不十分で,短い時間しか乗っていなかったものの,それでも十分に恐怖を感じました。たまに外出すると,ウイルスに関係なく,知らない人が近くにいる状況に慣れていないので,ちょっと落ち着きませんでしたね。
 これだけ多くの人が電車に乗っているということは,学校も職場もオンラインがそれほど広がっていないということですよね。こんなことをしていると,状況が変われば,あっという間に感染が広がるだろうなと思いました。オンライン化には根強い批判があるようですが,いまのうちにオンラインでやれるものはやるという態勢にしておかなければ,これから冬になって本格的な感染拡大があったときに,ほんとうに社会がストップしてしまわないか心配です。大学入試もオンライン対応の準備をしておかなければ,無試験で入学させるとか,逆に入試中止なんてことにもなりかねません。前者は大学改革としてあり得る選択肢ですが。

 ところで,ウイルスが不気味なのは姿が見えないからですよね。ウイルスが生物かということについては議論があるようで,それは生殖と摂食という生物の基本的なことを,ウイルスは自分でやらずに他の生物に寄生して行うからだそうです。ただ生物かどうかはともかく,確かにウイルスの存在感はあるわけで,こういうモノと共存しなければならないのは,たいへんです。
 そんなことを考えているとき,ふと思ったのは,ウイルスのことを少しでも理解するために,誰かウイルスを主人公にした小説を書いてくれないか,ということです。アメリカではオオスズメバチが,大変,恐れられているそうです。確かにオオスズメバチは恐ろしいのですが,日本人はなんとか共存してきました。それに百田尚樹の『風の中のマリア』(講談社文庫)を読めば,オオスズメバチの「生き方?」に,思わず感情移入してしまったりします。小説とはいえ,ハチだって,いろいろ考え,悩み,必死に生きているという思いにさせられます。百田尚樹が上手なのですが。しかも解説で,あの唯脳論の養老孟司が,ひょっとして虫にも意識があるのでは,ということを書かれています(この解説もまた面白いです)。小説の内容は,荒唐無稽な話ではなく,合理的な想像力の範疇に入るものかも,と思ったりもしました。
 ウイルスと人間は,ずっと昔から,共生と敵対の関係にあったのであり,今後は,新種のウイルスとも次々と付き合っていかなければならなさそうです。でもこれは人間にも非があります。ウイルスは,例えば熱帯雨林のなかにひっそり棲息していた動物に寄生していたにすぎなかったのです。そこに人間が侵入してきたから,人間に感染するなんてことが起こってしまうのです。熊やイノシシだって,昔は彼ら・彼女らが平穏に住んでいた領域に人間が侵入してきたから,人間に危害を与えざるを得ない状況になったのでしょう。ウイルスも,人間が近くに寄ってきたから感染したにすぎないと言いたいかもしれません。ウイルス側の言い分を,誰か素晴らしい想像力をもった人に小説を通して語ってもらえれば面白いでしょうね。

 

2020年9月 7日 (月)

書籍の紹介

 川口美貴さんからは,ついこの前に第3版をいただいたと思っていたら,『労働法(第4版)』をいただきました。お礼が遅くなりましたが,ありがとうございます。とても丁寧に書かれているので,長大なものになっていますが,菅野和夫先生の『労働法』とは違った意味で,座右に置いて活用することができそうです。水町『詳解労働法』,野川『労働法』と並び,持ち運びが困難な大著のカテゴリーの本ですね。なお前にも書いたと思いますが,私は,この本のクオリティは高いと評価していますので(私に評価されても,嬉しく思われないでしょうが),労働法を研究する人は持っておくべき本だと思っています。
 長大化する師匠(水町さん)の本とは逆方向で存在感を発揮しているのが原昌登君の『コンパクト労働法』(新世社)でしょう。第2版をいただき,どうもありがとうございました。とにかく版を重ねるのはたいしたものです。こういう軽やかな本は,世間に受けるのでしょうね。

«師弟の良書